先週の金曜日、2014年(平成26年)11月21日の話。
久々に夕方から少しだけ時間が空いたため、急ぎ、京都市山科区から大津市へ。
京阪京津線の大谷駅を起点として、蝉丸神社さんにお参りし、その後、音羽山を登ることにしました。
目次
蝉丸神社の黄葉
蝉丸神社さんの紅葉、黄葉。滋賀県大津市。
あまり知られていないようですが、なかなか立派なイチョウです。
京阪大谷~蝉丸神社さん側から音羽山に取り付くには東海道(国道1号)を跨ぐ必要がありますが、ご存じの方はご存じのように、昨年、つまり、2013年(平成25年)に発生した台風第18号の影響により、「東海自然歩道 逢坂山歩道橋」(東海自然歩道 音羽山コース 国道1号歩道橋)は通行できなくなりました。
「逢坂山関址」石碑の付近に架かる歩道橋です。
逢坂山歩道橋
国道1号に架かる「東海自然歩道 逢坂山歩道橋」。
在りし日の姿。上の写真のみ2013年2月撮影。
現在、上の写真に写る逢坂山歩道橋は渡れません。
そこで、歩道橋ではなく、国道1号の横断歩道を渡り、右手(西)、NTTさんの管理道方面への道を取ります。
そのまま民家を過ぎ、管理道から音羽山に入ることもできます [1]が、国道1号から少し登ったあたり、左手(東)に「建設省 逢坂山見張所」の古い建物が見え、その脇から音羽山の東海自然歩道に取り付くことができます。
音羽山ハイク 大津市
逢坂山見張所から東海自然歩道へ
逢坂山見張所。
京阪大谷(国道1号)から東海自然歩道への取付付近。
逆に、音羽山から東海自然歩道を利用して大谷方面へ下山する際は、逢坂山歩道橋の手前あたりでよく左前方(北西)を見ると、しっかりした踏み跡とテープが付いていますので、そちらに従えば、逢坂山見張所の脇に下りることができます [2]。
過去にこのコースを選んで下山した際、道を失い、誤って隣家さんの私道に下りてしまったこともありますが、一声かけて通していただきました。
ただし、こちらは「私有地に付き通行禁止」といった看板も立っており、私は快く通していただいたものの、特別な事情がないかぎり、避けるほうがよいでしょう。
東海自然歩道と合流すれば、あとはよく知られているコースを登るのみです。
深い森の中、ただひたすらに石段の道が続きますが、辛抱強く登っていくと、標高400mを過ぎたあたりで下の写真の地点に着きます。
東海自然歩道からNTT管理道へ
コースの途中にすぎませんが、よく見ると、目印となる赤いテープやピンクの布が巻かれています。
ここで階段の手すりを乗り越え、NTTさんの管理道へ出ます。
もちろん、下からNTTさんの管理道を登ってきても同じ場所に出ます。
管理道を少し登ると、送電鉄塔(鉄塔番号「山城北線 三十七番」)の展望地です。
送電鉄塔の展望地から比叡山や大津を望む
音羽山の中腹にあたる送電鉄塔の展望地から比叡山、比良山地、琵琶湖、大津と紅葉を望む。滋賀県大津市。
主な山 | 距離 | 標高 | 山頂所在地 | 備考 |
---|---|---|---|---|
四明岳 | 9.0km | 838m | 京都府京都市左京区 | 都富士 |
大比叡 | 9.0km | 848.1m | 滋賀県大津市 京都府京都市左京区 | 都富士 |
三石岳 | 10.2km | 675.6m | 滋賀県大津市 | |
蓬莱山 | 25.0km | 1173.9m | 滋賀県大津市 | |
打見山 | 25.5km | 1108m | 滋賀県大津市 | |
堂満岳 (暮雪山) | 28.7km | 1057m | 滋賀県大津市 | |
釈迦岳 | 30.9km | 1060.1m | 滋賀県大津市 (滋賀県高島市) |
大津や湖西の山麓、盆地部は靄がかっており、この様子でしたら、時間帯によっては琵琶湖が雲海の底に沈んで見えたかもしれませんね。
この展望地からの眺望は、音羽山の山頂からのそれとよく似ていますが、琵琶湖、湖北方面の視界が狭いため、山頂と異なり、伊吹山や白山(加賀白山)は遠望できません。
鶴の里(池の里)側からのコース上、北東尾根の鉄塔展望地のように、湖南や鈴鹿山脈方面の見晴らしがよいわけでもなく、京都方面に対する展望も限られていますが、大した労もなく登ることができるわりには比叡山や湖西に対する見晴らしがよく、個人的にはお気に入りです。
音羽山の他の展望地と異なり、知名度が高くはないため、改めて紹介しておきます。
山頂の景色との比較は、
上の記事に掲載している西大津方面の写真を。
余談ながら、大津港で行われる花火大会(びわ湖大花火大会)も、この構図の右端ぎりぎりに眺めることができ、若干とはいえ、これは山頂の北の展望地(東海自然歩道上の展望地)から見るより近くに感じることができます。
紅葉と音羽の話
自然林多しと言えども、東海自然歩道はさほど紅葉が期待できるコースではありません。
ところが、管理道のほうは落葉樹が目立ち、美しい紅葉を楽しむことができます。
歌枕としての「音羽山」は、古くより逢坂越の風景として詠まれてきました。
いし山にまうてける時おとは山の紅葉を見てよめる
つらゆき
秋風のふきにし日よりおとは山みねのこすゑもいろつきにけり『古今和歌集』
とくに紀貫之が詠んだ「秋風の吹きにし日より音羽山峰の梢(木末)も色づきにけり」の歌はよく知られるでしょう。
詞書に「石山に詣でける時」とありますので、この歌が逢坂越の道中で詠まれたのは明白ですが、歌によっては「音羽山」が清水寺さんを指すと解釈する方もいらっしゃいます。
より分かりやすい例としては、在原元方の「おとは山音にききつゝあふさかのせきのこなたに年をふるかな(人をまつかな)」の歌も『古今和歌集』に収載されます。
定家本以降の流布系では「年をふるかな」ですが、古筆では下の句を「人をまつかな」で結んでいたらしい。
歌に見える「音羽山」は「音」に合わせたケースが見受けられます。
在原元方の歌はもちろん、紀貫之の歌も「秋風の吹く音」と「音羽山」が掛かるとする解釈もありました。
古歌では「おとは山」の表記ですが、「端山」(外山と同義で、山域の端で人里が近い山)の意だったものが「音羽山」に転じたともいわれます。
本来、「音羽(う)」は音(いん)の一種で、『淮南子』天文訓では東方、南方、中央、西方、北方のうち、北方の音としています(其神為辰星 其獸玄武 其音羽 其日壬癸)。
日本の仏教では声明(しょうみょう)の五音(五声)のひとつと解されており、比叡山にも音羽川が流れますね。
また、『禮記』(礼記)月令篇の「孟冬之月」に「其音羽 律中應鍾」(其音は羽、律は応鐘に中る)の一節が、「仲冬之月」に「其音羽 律中黃鍾」(其音は羽、律は黄鍾に中る)の一節が、「季冬之月」に「其音羽 律中大呂」(其音は羽、律は大呂に中る)の一節があります。
応鐘や黄鐘、大呂は中国における十二律(六律と六呂)で、大原は来迎院さんや三千院さん、勝林院さんといった、いずれも魚山を号する寺院の付近を流れる呂川や律川をご存じの方もいらっしゃるでしょう。
音羽山は紅葉と合わせて歌に詠まれやすいですが、言葉のイメージとしては冬を連想します。
『淮南子』天文訓や『禮記』月令篇は、秦の呂不韋が編纂させた『呂氏春秋』十二紀の影響を受けており、とくに月令篇は十二紀を引き写したとされます。
NTT音羽無線中継所
NTT音羽無線中継所と送電鉄塔、紅葉を望む。
音羽山の三等三角点「小山」の「点の記」では、「NTT音羽山無線中継所」と「山」が加えられていますが、現地で確認するかぎり、無線中継所「音羽(滋賀)」です。
右奥に写っているのがNTT音羽無線中継所で、滋賀県と京都府の府県境となります。
時間も足りないため、山頂まで登るのは諦めることに。
音羽山の山頂は京都市山科区に所在しますが、登頂していないため、この日、私が歩いたコースは全て大津市にあたります。
音羽山で紅葉狩りを
音羽山で紅葉狩りを楽しみながら、管理道の新たな破線路を歩く。
以前は管理道を大っぴらには通行しづらく、私も今まで話題とすることを控えてきましたが、新版の地理院地図を見てみると、新たに破線路が数多く付いていることに気付きます。
この破線路を利用すれば管理道を大胆にショートカットできますが、紅葉を見る余裕を失うほどの激しい急登となる区間もあります。
通行する人も極端に少なく、NTTさんや関電さんのおかげか管理もよく行き届いているため、東海自然歩道より、ある種の「自然」が残されているのは皮肉なものです。
以上、2014年11月の話。
2016年(平成28年)追記。
「逢坂山歩道橋」(東海自然歩道 音羽山コース 国道1号歩道橋)は2013年8月に通行禁止となりましたが、2016年春には修復工事もおおむね完了しました。
滋賀県の公式サイトでは「国道1号線歩道橋付近は通行止め」とされたままですが、すでに復旧しており、長等公園~逢坂山歩道橋~音羽山の通行が可能です。
復旧後の様子は上の記事に。
音羽山(地理院 標準地図)
「音羽山(オトワヤマ)(おとわやま)」標高593.1m(593.2mから改定)(三等三角点「小山」)
京都府京都市山科区、滋賀県大津市
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