上賀茂 大田の小径ハイキング 黄色の京都タワーを展望

京都で桜の開花が宣言された日、つまり、2015年(平成27年)3月27日の話。
夕暮れ時、私的なソメイヨシノの標本木が花開いたのを確認後、阪神タイガース球団創設80周年に伴い、塔体が黄色くライトアップされる京都タワーを撮影するため、どこかの山へ向かうことに。

京都の桜 平野神社 魁桜 枝垂桜 京都市北区 2015年3月26日

京都で桜の開花宣言 / 平野神社の魁桜 2015年3月27日

2015.03.27

桜の開花宣言の話は上の記事に。

京都タワーだけではなく、この夜は通天閣なども黄色く照らされることは事前に知っており、空気が澄んでいれば大文字山や東山山頂公園から京都タワーと通天閣を併せて望むことも考えていましたが、あいにく、27日は遠霞みの空。
近くの山並みは綺麗に見えていましたが、これでは京都市側から通天閣まで明瞭に望むのは難しそうです。
それに、この日は空気がひどく乾燥しており、スギ花粉症ではない私ですら目が痛く、遠出する気も起きません。
日没が近いこともあり、せめて近場から京都タワーだけでも眺めようと考えます。
どこか手頃な山で、京都タワーが見えやすく、近年、訪れていない山はないものでしょうか……。
そうそう、北区上賀茂の「大田の小径(こみち)」がありました。
「こみち」の綴りは「小径」が正しく、「大田の小路」や「小道」ではありません。

「大田の小径」から黄色にライトアップされた京都タワーと伏見桃山城を望む 2015年3月
「大田の小径」から黄色にライトアップされた京都タワーと伏見桃山城を望む。
黄色というよりは橙色のようにも見えますが、間違いなく27日の夜に撮影しています。

「大田の小径」は、上賀茂神社さんの東、大田神社さんの裏山の散策路。
せいぜい標高200m未満の丘陵ながら、地元の方々や、多くの方々の手によって整備されており、手軽にハイキングを楽しめる山道です。
開通直後の2005年(平成17年)か、あるいは2006年(平成18年)頃に登ったきりで、久しく訪れていない山域ですが、当時、山上の展望地から京都タワーと伏見桃山城を撮影しています。
久々に「大田の小径」を歩いてみたら、当時は見落としていた、あることに気付き……。

実は、ある事情があり、「大田の小径」を27日、28日と続けて訪れています。
今回の記事は27日の山行を基にした内容となっていますが、掲載している写真は28日に撮影したものが混在しています。
27日は18時過ぎ、28日は17時50分過ぎに山上の展望地まで登りましたが、この10分程度の時間差と当日の雲の影響で、山中の明るさには大きな差が生じており、27日に山中で撮影した写真は暗いものばかりでした。

上賀茂神社境外摂社 大田神社を参拝 「大田の小径」登山口 2015年3月
「大田の小径」の登山口にあたる大田神社さんを参拝。
大田神社さんは上賀茂神社さんの境外摂社で、このあたりの裏山は上賀茂神社さんとの関わりが深く。

すでにあたりは薄暗く、参道には常夜灯が点いています。
右手の入り口からカキツバタ群落で有名な「大田ノ沢」(大田の沢)。
右後方には神社さんの裏山にあたる「大田の小径」の山が見えていますが、「大田ノ沢」の木立に遮られ、この位置からでは見えにくく。
「大田ノ沢」は裏山からの湧水を水源としています。

「大田神社前」交差点から「大田の小径」の山を望む 京都市北区 2015年3月
「大田神社前」交差点から大田神社さんの裏山(大田の小径)を望む。

上賀茂神社さんや二葉姫稲荷神社さんの裏山たる神宮寺山と並び、大田神社さんの裏山も鉢状の美しい山容です。
この裏山は地形図では標高点161m峰にあたり、大田神社前の交差点あたりから眺めると分かりやすく。
かつて、上賀茂神社さんの社領だった山々でも、北部の「神山」を総称とする山域に対し、南部の「本山」を総称とする山域の内にあります。

「大田ノ沢」越しに大田神社の裏山(大田の小径)を見上げる 2015年3月
「大田ノ沢」越しに大田神社さんの裏山(大田の小径)を見上げる。
右手前にはアセビ(馬酔木)のお花が咲いています。

上賀茂神社さんの裏山のうち、上賀茂神社さんの東側の約170m小ピークを「神宮寺山」、上賀茂神社さんの北側の標高点152m峰を「丸山」(御生所の山)、丸山の東の約130m小ピークを「小丸山」と呼びますが、現代において、神宮寺山の東に連なる大田神社さんの裏山には特定の山名が見当たりません。
この裏山は広く「神宮寺山」の一部であるとも見なせますが、山麓から見るかぎり、ピークとしては明確に独立しています。
貞享元年(1684年)の『菟藝泥赴』には「太田の山を中山といふ」と見え、どうやら、古くは裏山の一帯を「中山」と呼んだようです。

その後、1911年(明治44年)の『京都府愛宕郡村志』の「上賀茂村志」には、

「太田山」
本山の東の一峰を太田山といふ太田神社其下にあるを以てなり太田の澤は社の前にあり昔より和歌に詠みし名所なり
『京都府愛宕郡村志』

と見え、明治時代には単純に「太田山」(大田山)と呼ばれていたようです。
神宮寺山や太田山は、上賀茂に伝わる祭事「サンヤレ祭」の「山の神」(山神)にまつわる山々でもあります。

「大田の小径」の案内標 大田神社 拝殿の脇 京都市北区上賀茂 2015年3月
大田神社さんの奥、拝殿の北西脇に「大田の小径」の案内標が見えます。
これに従うと神社さんの西側の車道に出ますが、神社さんの境内敷地を通らず、この車道を北進しても同所に出ます。

西側の車道を北へ向かって登っていくと、次の案内標が見えますので、左手に神宮寺山の東斜面を見ながら坂道をさらに登っていきます。
かつて「大田の小径」を訪れた時よりも神宮寺山の東斜面は伐採が進んだようで、あたりは開けて明るい感じになっていました。
この風景の変化を見たことにより、むしろ神宮寺山のほうに興味が湧いてしまいますが、ここは予定どおり「大田の小径」へ。

「大田の小径」道標番号「1」 小径の取付 大田神社~岡本口 2015年3月
「大田の小径」道標番号「1」。

「大田の小径」の取付にあたる分岐です。
北は「小池」(京都GC上賀茂コースのため、通行不可)、東は「大田の小径」(~岡本口)、南は大田神社さんへ。
西だけ道標がありませんが、よく見ると踏み跡や登山道らしきものが見えます。
西側を少し登ってみると、「京都・文化の森 神宮寺山」の看板が立っており、この地点から容易に神宮寺山を登ることができそうです。
踏み跡があれば辿りたくなるのがハイカーの定め、神宮寺山を登りたくなりましたが、すでにあたりは薄暗く、これでは満足に写真を撮影できそうにありません。
また、そもそも、この日の目的からも外れていることから、やむなく諦めることにしました。

「大田の小径」道標番号「2」 歩きやすい山道 京都市北区上賀茂 2015年3月
「大田の小径」道標番号「2」。

この長い坂を登れば山頂と呼べる地点です。
距離こそ短いものの、「大田の小径」は雑木のトンネルを抜ける美しい山道でした。
上賀茂神社さんの裏山から松ヶ崎の山々(妙法)、やがては比叡山へとなだらかに連なる丘陵は岩の道でもあります。

「大田の小径」道標番号「3」 大田神社裏山の山頂 標高点161m 2015年3月
太田山の山頂。「大田の小径」道標番号「3」。

とくに山名標のようなものは見当たりませんが、ここが大田神社さんの裏山の山頂で、「大田の小径」の最高地点にあたる標高点161m峰。
『京都府愛宕郡村志』にしたがえば「太田山」(大田山)の山頂、あるいは『菟藝泥赴』にしたがえば「中山」の山頂とでも呼べばよいでしょうか。

大田神社さんの裏山の山頂(大田の小径)から大文字山を望む 2015年3月
大田神社さんの裏山の山頂(大田の小径)から夕日を浴びる大文字山を望む。
撮影地点から西千頭岳(千頭岳三角点峰)(京都市伏見区)まで14.5km。

視界は限られていますが、大文字山の「大」の字跡が明瞭に見えることから、送り火も綺麗に望めそうです。

五山送り火「大文字」(大文字山、如意ヶ嶽)と京都の夜景 2015年8月

上賀茂 大田の小径から「大文字」の送り火と京田辺の花火を望む

2015.08.19

この年の夏、当地から実際に送り火を観賞した話は上の記事で。

「大田の小径」道標番号「4」 休憩ベンチ、岩場がある展望地 2015年3月
「大田の小径」道標番号「4」。
道標番号「3」の山頂から東に少し下ると、休憩ベンチ、岩場がある展望地です。

27日に当地を訪れた際はすでに18時を過ぎていました。
ライトアップは18時頃からと事前に告知されていましたが、まだ空が明るく、遠くから見ても分かりません。
のんびり過ごしながら夕暮れ時の京都を眺めていたら、18時20分頃には京都タワーが点灯していることが分かりやすくなりました。

「大田の小径」の展望地からイエローの京都タワーを望む 2015年3月
「大田の小径」の展望地からイエローの京都タワーを望む。

主な山、建築物距離標高
(地上高)
山頂所在地
京都タワー8.2km(131m)京都府京都市下京区
甘南備山
(甘南備山 雄山)
28.0km221m京都府京田辺市
高ヶ峰30.9km305.6m大阪府枚方市
京都府京田辺市

京都タワーが黄色く照らされているのは、「阪神タイガース球団創設80周年事業 “Yellow Magic プロジェクト”」に伴うイベントです。
これに先駆けて19日にも試験点灯されましたが、その日は京都御苑「桃林」におけるハナモモの開花日で、自身の当日のメモを見ると、「山を登る時間的な余裕はなし」としていました。

試験点灯を除き、タワーの塔体がイエローとなるのは初めての試みではないかと思われますが、遠目にはオレンジとの区別が付きにくく。
写真の右端で見切れるように、高ヶ峰や千鉾山の遠方には金剛山地らしき山影がぼんやりと写っていますが、肉眼では見えません。
近くの山々は明瞭に見えていましたが、遠くは見えにくく、生駒山すら見えないに等しい日でした。

「大田の小径」の展望地から京都タワーと生駒山を望む 2015年3月
「大田の小径」の展望地から京都タワーと生駒山を望む。
撮影地点から生駒山(奈良県生駒市、大阪府東大阪市)まで43.1km。

翌日の3月28日に撮影した写真です。
この日は前日とは異なり生駒山は見えていましたが、やはり、それより遠くは霞んでいます。
写真では中央の遠方に金剛山の山影がうっすら写っていますが、目を凝らして眺めて分かるかどうか程度です。
好条件の日であれば、計算上、この展望地からは紀伊山地西部や大峰山脈の高峰まで望むこともでき、間に海を挟まない山に限定すれば、標高200m未満の低山から100km先の八経ヶ岳が見えるという点で、非常に貴重な展望スポットだと考えられます。

追記。
後日、「大田の小径」から大峰山を撮影しました。

旅する蝶アサギマダラとベニバナボロギク 京都市北区 神宮寺山 2015年9月

京都 大田の小径から奈良の大峰山が見える? アサギマダラ

2015.09.30

詳しくは上の記事に。
上でも書きましたが、海を挟まずに100km先の八経ヶ岳を見通せる低所は珍しいです!

木々に遮られるため、南西向きについては生駒山を望むのが限界で、それより遠くを望むのは難しいでしょう。
環境に変化があれば和泉山脈が見える可能性があります。

上賀茂 「大田の小径」の展望地から京都の夕景、夜景を望む 2015年3月
「大田の小径」の展望地から京都の夕景、夜景を望む。

下山前に広角でも夜景を撮影しておきましたが、なおさら京都タワーが黄色であることが分かりにくいです。
左には華頂山や清水山など京都東山の山々が見えており、その山麓、中腹には知恩院さんや清水寺さんなども写っていますが、よくよく探さないと分からないでしょう。
遠くは見えにくい日でしたが、眼下の街並みや東山の山並みはシャープな見え方で、空気そのものは澄んでいたように思います。
「大田の小径」を久々に訪れましたが、よく整備されたコースは歩きやすく、ちょっとした散歩にも適しているでしょう。
良い息抜きとなりました。

27日に「大田の小径」を登った、歩いた話はこれで終わりですが、どうしても神宮寺山のことが気になり、翌日(28日)の夕方、上賀茂を再訪することに……。
今まで私が見落としていただけで、実は神宮寺山もなかなか好展望の山でした。
(岩倉盆地や山科盆地、山城盆地も含め、)京都盆地外縁部の展望についてはおおむね把握していたつもりでしたが、ごくごく近場の山を見落としていたとは恥ずかしいかぎりです。

以上、2015年3月27日、28日の話。
サクラなどの開花状況しだいですが、気が向けば神宮寺山の話も書きます。

神宮寺山の山頂付近から「都富士」比叡山は四明岳を望む 2015年3月

上賀茂 神宮寺山(片岡山)から大文字山と京都タワーを望む

2015.04.10

神宮寺山の話は上の記事に。
なお、「大田の小径」の北東側は「京銀ふれあいの森」と接続しています。

大田の小径(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「大田の小径」周辺の地図を表示
「大田の小径(オオタノコミチ)(おおたのこみち)」
山頂と見なせる地点 標高161m
京都府京都市北区

「大田神社」
京都府京都市北区上賀茂本山 付近

ABOUTこの記事をかいた人

Maro@きょうのまなざし

京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!