大津 小関越と皇子が丘で熊 長等山や如意ヶ岳にツキノワグマ?

2016年(平成28年)7月の話。
比叡山の南部山域でもツキノワグマ(月輪熊)が捕獲され、比叡アルプスより南、つまり、山中越や田ノ谷峠(田の谷峠)の周辺でも野生の熊が目撃されるようになって数年が経ちました。
しかしながら、(あくまでも個人的な見解に過ぎませんが、)比叡平を越えて南、つまり大文字山や如意ヶ岳までツキノワグマが南下することはないだろうと考えており、大文字山における過去の目撃例についても懐疑的な見方をしていました。

ところが、「2016年6月21日の午後6時30分頃、大津市小関越の頂上付近で、体長70cmほどのクマが車の前を横切った」との目撃情報が寄せられ、大津市側、京都市側、双方の山麓地域で広く注意喚起がなされるに至っては、この見解を改める時が来たのかもしれません。
この目撃情報が事実であれば、京都東山・山科・大津界隈では過去最南の目撃例だと考えられます。

小関越と皇子山でクマが目撃される

小関越・逢坂山周辺 出典・地理院地図
小関越・逢坂山周辺の地形図。地理院地図(標準地図タイル)から作製。2016年7月17日閲覧。

小関越(こぜきごえ)は長等山と逢坂山の間に通じる北国街道(西近江路)の古道で、東海道の峠道である逢坂越(逢坂峠)(大関越)と並び、大津と京都を結ぶ交通の要所でした。
東海道は交通量が多い国道1号が通じており、クマが逢坂関を越えて音羽山まで南下するとは考えられませんが、小関越から逢坂山までは生息範囲を広げる可能性があります。

長等山・皇子が丘周辺 出典・地理院地図
長等山・皇子山周辺の地形図。先ほどの小関越の地形図と南北に連結しています。

その後、2016年7月3日には皇子山でもクマが目撃されたと聞きました。
皇子山古墳の山と、皇子山カントリークラブさん付近の標高点408m峰、いずれも「皇子山」と呼ばれます。
前者は古い地形図では「皇子山」と山名が表示され、明確に「山」として扱われていますが、現行の地理院地図では「皇子山古墳」と表示され、周辺の開発が進んだこともあり、山らしさは失われつつあります。
後者は如意ヶ岳の東にゴルフ場が開業して以降、ハイカーが「皇子山」と呼んでいる山で、現地には古い山名標が残っていますが、近年は用いる方が減りつつあるようです。
こちらの皇子山の1つ西の小ピークは京都市左京区側にあたる灰山(五別所山)ですが、このあたりの山々はハイカーによって呼び名が異なることもあり、よく話を聞いてみないと、それぞれどの山を指しているのか分かりません。

皇子山古墳から伊吹山、琵琶湖の奥島(津田山)を遠望 大津市 2016年6月

皇子山古墳から伊吹山や琵琶湖を展望 山中越~近江神宮 兵営前駅

2016.10.21

皇子山古墳の「皇子山」の話は上の記事に。

皇子山の山頂 古い山名標 標高408m 滋賀県大津市 2016年1月

如意ヶ岳~灰山遺跡~皇子山408m(長等山・三井寺の西)

2016.10.07

標高点408m峰の「皇子山」の話は上の記事に。

当初、「皇子山でクマが目撃された」と聞いて、皇子山古墳の山だと西大津の街に近すぎるので、さすがにゴルフ場のほうだろうと考えていましたが、よく調べてみると、目撃されたのは皇子が丘公園の出入り口付近とのこと。
皇子山は皇子山でも、京阪さんの皇子山駅のほうが近いエリアでした。
早尾神社さんから千石岩を経てゴルフ場や如意ヶ岳に至る東麓にあたりますが、このあたりは民家も近く、この目撃例が事実であれば、もう少し騒ぎになりそうなものです。

大津市の公式サイト によると、「職員が現地を確認したところ痕跡等は発見できませんでした」とのこと。
個人的には、明確な痕跡が見付かるか捕獲例が出るまでは本当に生息しているとは断定できないと考えていますが、如意ヶ岳や長等山付近を登山するハイカーは十分に注意してください。

ところで、上のリンク先のページには皇子が丘公園の目撃情報(大津市山上町)は掲載されていますが、小関越の目撃情報は掲載されていません。
こちらの現地の状況はどうなっているのでしょうか。

大津市 小関越(小関峠)ハイキング

小関越の西麓 大津市藤尾奥町側の取付 「普門寺前」道標 2016年7月
普門寺さん。小関越の西麓、大津市藤尾奥町側の取付。「逢のみち 湖のみち 山歩みち」。

昨日、つまり2016年7月16日。世間的には祇園祭の宵山の日。
別件もあり、久々に「小関越えの道」から長等公園を経て東海自然歩道を逢坂山歩道橋までハイキングしてきました。
小関越の西麓にあたる普門寺さんの前の「逢(あ)のみち 湖(こ)のみち 山歩(さんぽ)みち 大津の散策路」道標には、「小関越え(峠まで)0.9km 長等公園まで2.15km」とあります。
普門寺さんは滋賀県大津市に所在しますが、京都府京都市との府県境も近く、すぐ西側の四ノ宮小金塚地区は京都市山科区にあたります。

上の写真で左の道を選べば藤尾神社さん方面(~如意ヶ岳ガードレール脇の展望地や雨社など)、右の道を選べば小関越へ。

小関越のピーク付近 「小関越えの道分岐点」道標 2016年7月
小関越のピーク付近。「小関越えの道分岐点」道標。

かつては逢坂の周辺にフシグロセンノウが多く自生していたそうですが、今となっては昔の話です。
かろうじて比叡山には残っていますが、それより南、大文字山でも見たことがありません。

ツリフネソウ 釣船草 花 小関越~小関峠~如意越へ 大津市 2016年10月

大津 長等公園~小関越~如意越 ツリフネソウやミゾソバの花

2016.10.26

現代の小関越周辺でも湿った環境に咲くお花は観察できます。
上の記事にツリフネソウなどの写真を掲載しています。

小関越の頂 小関峠地蔵(喜堂) ツキノワグマは……? 2016年7月
小関越の頂。小関峠地蔵(喜堂)。クマは……?

昔は水が湧いており、峠越えの際には水場で休憩なさる自転車乗りの方と挨拶を交わしたものですが、いつの間にやら枯れてしまいました。
この地蔵堂(喜堂)の裏から逢坂山(相場山)に取り付けます。

クマは小関峠の頂上付近で目撃されたそうで、逢坂山側、長等山側、それぞれ軽く調査しましたが、私には痕跡のようなものは発見できず。
また、クマが目撃された地点に掲示される熊マークの警告のようなものも見当たりません。
ここで言う痕跡は、フン(糞)、足跡、体臭、樹皮剥ぎ、などを指します。

小関越の西 別所国有林の取付 長等山を経て如意ヶ岳へ 2016年7月
小関越の地蔵堂の西、別所国有林の取付。長等山を経て如意ヶ岳へ。

お地蔵さんの西、東、それぞれから長等山に取り付けます。
長等山を経て如意ヶ岳を登山するコースは大文字山ハイカーにはお馴染みですね。
現在、長等山の登山道は「如意越」として整備が進められています。

坊越峠 「如意越の道」標 長等山の登山道 2016年10月

如意越古道で長等山ハイキング 小関峠~坊越峠 霊仙山を遠望

2016.10.28

小関峠から長等山を登った話は上の記事に。
途中の「坊越峠」で、三井寺さんからの古道「如意越」と合流します。

小関越の東、大津市神出開町側の取付 「小関越えハイキングコース入口」道標 2016年7月
小関越の頂の東、大津市神出開町側の取付。「小関越えハイキングコース入口」道標。

道標には「三井寺(観音堂)1.2km 長等公園1.15km」とありますが、ここからも長等山や如意ヶ岳を登れます。
観音堂へ抜けるコースは昔の(本来の)小関越にあたります(現代の小関越とは経路が異なります)。

暑さに負けて、長等山や逢坂山を登る気は起きず、この日は小関越の峠を乗り越えて、百々川沿いに東の長等公園へ下りました。

話が長くなってきたので記事を分けます。

東海自然歩道「逢坂の関跡」紹介 逢坂山歩道橋の北側 2016年7月

東海自然歩道 長等公園~逢坂山歩道橋~音羽山が復旧 通行可

2016.07.19

続きは上の記事に。

京都一周トレイル道標「東山39」 七福思案処 2014年5月

京都 大文字山にツキノワグマ(熊)が? 比叡山は? クリンソウ

2014.05.12

大文字山のクマ目撃情報については上の記事に。

追記しておきますと、本記事の初稿公開時点では長等山周辺におけるクマの目撃例について、やや懐疑的な部分もありましたが、後年、クマによると考えられる樹皮剥ぎ(クマ剥ぎ)や爪痕も確認されましたので(写真をくださった方々に感謝)、今後は生息すると仮定して行動するのが無難でしょう。

追記

京都西山の天王山でもクマが目撃される

2016年10月4日、追記。
2016年10月3日に天王山の山麓、JR山崎駅付近でもクマ3頭が目撃されたとの報道がありました。
年々、京都西山(や北摂山系)ではツキノワグマの行動範囲が南下しており、京都の東西でともに同じような動きをしているのが興味深いです。
国道1号に阻まれるため、東山側(比叡山地側)のクマが逢坂山から音羽山まで南下するのは困難だと考えられるように、淀川水系に阻まれるため、西山側(老ノ坂山地側)のクマが大山崎町から八幡市まで南下することはないでしょう。

2017年(平成29年)9月、追記。
その後も北摂山系のクマは南下西進を続けているようで、ついには大阪府茨木市を経て箕面市でも目撃例が発生しました。
過去、北摂山系では亀岡側から能勢に南下したと考えられる個体や、西山側から大山崎に南下したと考えられる個体が目撃されており、どういった経路で箕面に現れたかは分かりません。
茨木や箕面で目撃された個体が猪名川を越えるとは考えにくいですが、これもどうなるかは分かりません。

国道1号を越えて音羽山の山麓でもクマが目撃される

2020年(令和2年)6月2日、追記。
2020年5月28日、同31日に大津市国分でもクマが目撃されたとの報道がありました。

住宅街でクマ目撃、体長1メートル 警察が注意呼び掛け|京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/263974 (リンク切れ)

大津市によると、28日は「国分二丁目の集落から裏山」で、31日は「国分一丁目の集落から周辺」で目撃されたとのこと。

本記事の初稿時に「東海道は交通量が多い国道1号が通じており、クマが逢坂関を越えて音羽山まで南下するとは考えられません」といった見解を述べておきました。
しかしながら、大津市国分は音羽山や千頭岳の東麓にあたる地域であり、もし国分周辺でクマの生息を裏付ける痕跡などが確認されれば、過去に述べた見解をさらに改める必要がありそうです。
音羽山からは宇治川ライン(瀬田川)まで山続きであり、あくまでも可能性の問題ですが、いわゆる醍醐山地の京都市側や宇治市側まで出没範囲を広げるかもしれません。
ただし、醍醐山地は北を東海道(国道1号)、東と南は宇治川(瀬田川)により遮断された山地であり、「国分で目撃されたクマがどこから現れたのか」が謎のままです。
まさか、国道1号の横断歩道や歩道橋を堂々と渡ったのでしょうか?(外出自粛などの影響で5月は国道1号の交通量が減っていた?)

京都西山の小塩山の山中でクマが撮影される

2020年8月、追記。
小塩山に自然保護団体さんが設置していたカメラがツキノワグマの姿をとらえたとの報道がありました。

京都市の山にクマ!偶然、動画で撮影 仕掛けに驚き獣道疾走|京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/323731 (リンク切れ)

以前よりポンポン山の周辺や高槻市の山麓域でツキノワグマの目撃例がありましたが、これほど明確に姿をとらえた映像は初めて見ました。
これにより、生息している事実は疑いようがなくなりましたので、今後、西山でハイキングなさる方々は最低限の心構えのようなものが求められるでしょう。

京都府南部の山城地域でもクマが目撃・捕獲される

2017年6月に山城地域にあたる宇治田原町でもツキノワグマの目撃例が発生していますが、これについては足取りや痕跡を追えず、その後、7月には宇治田原町や宇治市でシカを襲う大型の野犬が頻繁に目撃されるようになりました。
両者の関連は不明です。

2021年(令和3年)12月15日、追記。
過去の目撃例との関連性は不明ですが、ついに山城地域でもクマが捕獲されたとの報道が。

京都・山城地域で初のクマ捕獲 注意呼びかけ、わな猟の規制変わる可能性も|京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/694246 (リンク切れ)

京都府相楽郡和束町湯船でしたら、滋賀県甲賀市(信楽町)と隣接する地域ですね。
比叡醍醐山地と山城地域の山々(鷲峰山地・笠置山地・信楽高原)の間は宇治川ライン(瀬田川)で遮断されており、もし、将来的に、山城地域にクマが侵入するとしたら、おそらく信楽高原側からになる可能性が高いでしょうと申し上げておきましたが、結果的に私の予想が当たったようです。

関連記事 2016年7月 小関越~長等公園~逢坂山

すべて同日の山行記録です。併せてご覧ください。

小関越(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「小関越」周辺の地図を表示
「小関越(コゼキゴエ)(こぜきごえ)」
標高200m
滋賀県大津市

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2 件のコメント

  • こんばんわ、コメントご無沙汰しております。
    大文字山での目撃情報から2~3年、久しぶりの山中越以南でのツキノワグマの目撃情報ですか、、、
    以前お話した通り、maroさんと同意見で明確な痕跡が見つかるまでは信じ難いところですが、R1以北まではもう生息域であると思った方が良さそうですね。
    単純に今年のような餌不足(特に比良山系のブナの実)だけが理由ではないでしょうし、人と同じく熊の生活、文化も日々変化し続けている結果として起こっている状況なんでしょうね。
    娯楽として人が山を歩くように、案外熊としては人里を歩きにきているだけかもしれませんが。

    • こんにちは。
      朝日を拝むため千石岩を登ったら岩の上でクマも一緒に……、なんてことになったら驚くでしょうね。
      人を恐れて里に下りてこなければよいのですが、シカもサルもイノシシも山麓に現れる現状を見るかぎり、なかなかそうもいかないでしょうか。
      ツキノワグマの移動速度は速く、行動範囲もきわめて広く、山中を気ままに闊歩できるのは羨ましいです。

      六甲側からのホイールも拝見しました。伊丹空港やスカイウォーカーと同じ構図に収まるのがいいですね。
      梅雨時は雨を考えると事前にお誘いしにくい、夏は高い山に行かはるでしょうからお誘いしにくい(笑

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    Maro@きょうのまなざし

    京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!