京都の大文字山から大阪湾、淡路島、四国が見える? [遠望・展望]

先日、私が大文字山で過ごしていると、後から登っていらっしゃった若い男女の2人組さんが、「大文字山から淡路島が見えると聞いたのですが……」と。
京都府には大文字山を称する山や、それに類する山が複数ありますが、本記事で取り上げるのは京都東山の大文字山、いわゆる「東山三十六峰」の大文字山です。
京都盆地の北東部に所在し、三角点が設置される山頂や、「五山送り火」で知られる「大」の字の火床は京都市左京区にあたりますが、その山域は広大で、京都市山科区や滋賀県大津市にも跨ります。

「大文字山から淡路島が見える?」、これも近年になり増えた質問の1つですが、

大文字山の山頂から京都西山の向こうに淡路島を望むことはできますが、大文字山の火床から淡路島を望むことはできません。
 火床から淡路島まで遠望できるとおっしゃる方や、火床から淡路島が見えると紹介している記事は誤りです。
 また、山頂から見えるとは申し上げても、島影がはっきり分かるわけではなく、島南部の高峰を見通せるだけにすぎず、それも、年に数回、見えるかどうかです。
 空気が澄んだ日にいらっしゃれば、運が良ければ見えるかもしれませんね」

とお答えするようにしています。

大文字山から淡路島が見える?

近年、大文字山の火床から淡路島が見えるという誤った話が広まっています。
どうやら、火床から大阪平野の向こうに見える和泉山脈西部、いわゆる紀泉アルプス(紀泉高原)の山々を淡路島だと誤認することに起因しているようです。
私個人としても、現地においての説明はもちろん、SNSなどを利用して、これ以上、そういった誤りが広まらないように努めていたものの、残念ながら、マスメディアさんまでもが謬伝に加担する例が見受けられます [1]
当初は現状を憂うのみでしたが、衆議成林に屈するのも惜しく、当ウェブサイトで情報や写真を広く公開することで、そういった現状を打開できるのではないかと考えるに至りました。

よくある勘違いとしては以下のようなものを挙げることができます。

「『あべのハルカス』の後方にうっすら淡路島が見えた!」
それは雲山峰など紀泉アルプスの山々です。

「大阪のビル街(高層ビル群)の後方にうっすら淡路島が見えた!」
それは高森山など和泉山脈西端部の山々です。

火床から諭鶴羽山に対する見通し

大文字山の火床から諭鶴羽山に対する見通し
出典「基盤地図情報(数値標高モデル)10mメッシュ」(国土地理院)
大文字山の火床(標高330m)から淡路島の最高峰である諭鶴羽山に対する見通し。
京都西山に遮られるため、大文字山の火床からは見えません。

山頂(三角点)から諭鶴羽山に対する見通し

大文字山の三角点(山頂)から諭鶴羽山に対する見通し
出典「基盤地図情報(数値標高モデル)10mメッシュ」(国土地理院)
大文字山の三角点(標高465.4m→465.3mに改定)から淡路島の最高峰である諭鶴羽山に対する見通し。
山を越え海を越え、大文字山の山頂から淡路島南部の高峰を見通せます [2]

双眼鏡などの機材があるに越したことはないものの、方角さえ正しく把握していれば、諭鶴羽山地の山々は肉眼でも眺望できます。
ただし、先にも述べたように、いつでも見えるというものではなく、とくに空気が澄んだ好条件の日に限られます。

大文字山から淡路島の撮影例

大文字山の山頂(三角点)から淡路島南部の諭鶴羽山地を望む 2010年12月
大文字山の山頂(三角点)から淡路島南部に所在する諭鶴羽山地を遠望する。

2010年(平成22年)12月に撮影した写真です。
手前の稜線は京都西山で、その遠方に見えているのが淡路島南部の諭鶴羽山地です。
分かりにくいですが、諭鶴羽山は「約530m小ピーク」と指し示したピークの後方で、その山頂がわずかに見えるのみです。
この日は光の差し方がよく、手前の約530m小ピークと諭鶴羽山が分離して見えましたが、このような見え方をすることは稀で、基本的には両座は重なって見えるため、諭鶴羽山の山頂を正しく認識するのは困難です。
とくによく目立つ、(地形図に山名の表示がある山としては)淡路島で2番目に高い山でもある柏原山を確認できれば十分でしょう。

なお、京都西山の高峰に遮られるため、大文字山から淡路島の北部や中部(津名山地)、ならびに明石海峡大橋は見えません。
あくまでも淡路島南部(諭鶴羽山地)の高峰を見通せるのみです。

京都西山から視点を少し左へ動かしてみましょう。
逆に申し上げれば、下の写真の構図から視点を少し右へ動かせば淡路島南部の島影が見える日もあります。
これは友ヶ島と淡路島の位置関係を把握していれば理解できるでしょう。

大文字山から大阪湾、友ヶ島の撮影例

大文字山の山頂(三角点)から大阪湾、大阪港、友ヶ島を望む 2010年12月
大文字山の山頂(三角点)から大阪湾、大阪港、友ヶ島を遠望する。

同じく2010年(平成22年)12月に撮影した写真です。
梅田スカイビルの左にグランフロント大阪のビル群が写っておらず、今となっては貴重な写真となりました。
このように、大文字山からはコスモタワー(大阪府咲洲庁舎)、南港スカイタワー(関西電力南港発電所の煙突)、大阪港、天保山大橋、大阪湾の海、さらに、その後方には遠く紀淡海峡に浮かぶ友ヶ島の島影まで望むことができますが、淡路島南部とは方角が異なる(大文字山から見て、友ヶ島は淡路島より左手にあたる)ため、注意が必要です。
繰り返し述べておきますが、この構図における、梅田スカイビルや南港スカイタワーの後方に見える山影(大阪湾に向かって落ちる和泉山脈西端部の連なり)を淡路島と誤認なさる方がいらっしゃり、そのように吹聴して回る方もいらっしゃるようですが、それは誤りです。

また、ごくごく稀にですが、遥か遠くの彼方、大文字山から四国の一部を望むこともできます。
約200kmの距離があるため、四国については、毎日のように大文字山を登っていらっしゃる方であっても、まずめったに目にする機会はないものと考えられます。
多くの方々が訪れる、京都でも屈指の人気を誇る山であるにもかかわらず、現状では私以外の撮影例が存在しません。

関連記事

大文字山から諭鶴羽山の見え方について、より詳細な解説は上の記事で述べています。

その他、私が過去に大文字山から淡路島、四国を撮影した写真は上の記事に掲載しています。
具体的な撮影例はそちらを参照してください。

比叡山(四明岳)からの撮影例は上の記事に掲載しています。

その後、大文字山だけではなく、大津市寄りの如意ヶ岳(如意ヶ嶽)の中腹から淡路島を見通せるようになりました。
大文字山の山頂とは島影の見え方が異なります。詳細は上の記事に。

本記事の初稿は2013年(平成25年)に公開しましたが、あれから3年経った2016年(平成28年)現在、おかげさまで、大文字山の火床から淡路島まで見通せるといった根拠のない謬説が広まるのを抑えられている、のではないでしょうか。
もし、本記事を公開しなければ、インターネット上でも、ローカルでも、今も誤った話が広まり続けていたのではないかと考えています。
本記事の拡散や口コミなど、ご協力くださった方々に感謝いたします。
これからもよろしくお願いいたします。

この件に限らず、誤った話が出版物に掲載されるのは良い話ではありません。
なぜなら、その出版物をソース(出典)として、某なんたらペディア的なウェブサイトに引用されてしまう可能性があるからです。
「この件に限らない」と念押ししておきますが、雑誌やガイドブックなどに、「○○山から△△まで見える」と書いてあれば信じる方は多く、それを楽しみに山を訪れる方もいらっしゃるでしょう。
それだけに、ある程度、編集には慎重を期していただきたいと考えています。

脚注

  1. たとえば、2012年(平成24年)発行の「SPECTATOR vol.26」の記事、地図解説(118P)には、火床について「天気が良ければ大阪のビル街や淡路島も望むことができる」とありますが、その根拠は示されていません。[]
  2. ただし、諭鶴羽山の北東6.6kmに所在する約530m小ピークと重なるため、実際には、諭鶴羽山については山頂をわずかに見通せるのみです。[]