京都府中央部の山地を中心として、新たに「京都丹波高原国定公園」が指定されます。
由良川の上中流域、淀川水系桂川の上中流域の山地や河川がもたらす豊かな自然や生態系、それに里山や里地の文化的景観が相まった美しい風景が高く評価されました。
その指定範囲は南丹市、京都市、綾部市、船井郡京丹波町の3市1町に跨っており、約6.9万haにも及ぶ広大な区域面積を有します。
いわゆる「丹波高地」のうち、京都北山や美山、芦生研究林の広い山域が含まれており、利用と保全、双方の観点から、その整備事業が注目されます。
芦生の新緑。美山町芦生(京都大学芦生研究林)も「京都丹波高原国定公園」に指定されます。
芦生研究林に残存する原生的な森林が、とくに重点的に保護される「第1種特別地域」に指定される見込みです。
いわば国定公園の核心部とも言える山域にあたります。
「かやぶき」で知られる美山の風景。里山と里地。
よく見ると中央に鯉のぼりが写っており、私が撮影した時期が分かりますね。
2015年(平成27年)10月23日に「京都丹波高原国定公園(仮称)」の計画案が環境省より公表されたことを受け、10月28日に本記事の初稿を公開しました。
その後、2016年(平成28年)2月23日に開催された中央環境審議会の答申により、「京都丹波高原国定公園」の指定が承認されました。
3月25日に正式に国定公園として指定され、京都府庁で国定公園指定記念横断幕の除幕式が行われます。
翌26日には南丹市美山文化ホールで国定公園指定記念式典が開催される予定です。
2016年3月25日の記事は上のリンク先に。
官報の告示内容や、より詳細な位置図などを掲載しています。
以下は2015年10月28日に初稿を公開した記事です。
目次
意見の募集(パブリックコメント)
かねてより進められていた京都北山や美山、芦生の国定公園化、「京都丹波高原国定公園(仮称)」の計画案が2015年10月23日に公表されました。
指定及び公園計画の決定に向け、環境省さんでは10月23日から11月21日までパブリックコメントを受け付けています。
(→ 期間が短すぎると指摘を続けてきましたが、11月28日まで延期されました)
(→ 締め切られました)
京都丹波高原国定公園(仮称)の指定及び公園計画の決定に関する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)
https://www.env.go.jp/press/101505.html
良い悪いは別として、これは京都北山が観光地化されることに繋がる内容です。
少しばかり時間に余裕があり、このような話は初耳だ、京都北山を好きな人間としては気になる、という方は、上記リンク先で公開される添付資料の「京都丹波高原国定公園(仮称)の指定書及び公園計画書(環境省原案)」、ならびに「公園区域位置図」、「施設計画図」に目を通してみてください。
その上で気付いたことがある、意見がある方は、「パブリック・コメント制度」 に基づき、環境省自然環境局国立公園課に提出してください。
「京都丹波高原国定公園(仮称)の指定書及び公園計画書(環境省原案)」(以下、「環境省原案」とします)で、
森林生態系や河川生態系等の多様な生態系が文化的景観と相まって雄大で美しい景観を有し、傑出性が高い風景地といえる
と評価されたのは喜ばしいことですが、税金により整備・維持されるにもかかわらず、国定公園の指定や、そのあり方が、多くの京都府民や国定公園に隣接する諸県在住者、それに利用者らに周知されないまま、わずか1ヶ月間という短い期間で意見の募集が締め切られ、そのままなし崩し的に物事が決まってしまうことを危惧しています。
私自身、京都北山を好む一介のハイカー、京都府民として、今回の記事を公開しておきます。
京都丹波高原国定公園の範囲
「公園区域位置図」ならびに「公園区域図1~5」を見るかぎり、広義の「丹波高地」のうち、いわゆる「京都北山」 [1]の広い範囲が公園区域に含まれています。
「京都丹波高原」を国定公園名の仮称としていますが、(ここで情報源を申し上げるわけにはいきませんが、)事実上、正式名称として内定しています。
本地域は京都府中央部に位置し、北側で福井県と、東側で滋賀県と接しており、中・低起伏の山地を主体とする地域である。
「環境省原案」に見えるように、公園区域の主体となるのは、あくまでも「山地」です。
この「京都丹波高原国定公園(仮称)」の指定範囲を「公園区域位置図」で見てみると、北西端は綾部市東部の君尾山(光明寺さん)の付近で、尼来峠、頭巾山から南丹市に入り、京都福井府県境尾根(若丹国境尾根)を東に堀越峠、八ヶ峰など。
芦生の森(京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林)は全域が公園区域に含まれ、三国峠(三国岳)(近江・若狭・丹波国境)が北東端。
京都滋賀府県境尾根(現在の高島トレイル南端部)を南下し、三国岳(久多三国)(近江・山城・丹波国境)から京都市に入り、経ヶ岳から京滋府県境を伝って鎌倉山(カマクラ)、峰床山(八丁平湿原)、京都府最高峰の皆子山。
左京区大原尾越、大見といった京都府でもとくに標高が高い地点に所在する集落を含みつつ、京滋府県境から離れ、ナッチョ(天ヶ森)、百井峠、花脊峠と西進。
芹生峠から合併前の北桑田郡京北町と京都市の旧市町境(城丹国境)を伝い、愛宕山(愛宕神社さん)の北・地蔵山の南の旧市町境が南西端。
北へ日吉町の世木ダム・日吉ダムの周辺、右京区京北の周山、廃村八丁、深見トンネル(深見峠)から南丹市に入り、原峠、神楽坂、海老坂、大野ダムなど合併前の北桑田郡美山町のほぼ全域、長老ヶ岳から船井郡京丹波町の一部まで。
以上の枠内。
「丹波高地」や「丹波国」にあたる山域・地域でも、兵庫県との府県境が近い、あるいは接する山域・地域(京都府自然環境目録では「丹波区(丹波高地)摂丹地区」)は公園区域から完全に外れており、福井県や滋賀県との府県境が近い、あるいは接する山域・地域(京都府自然環境目録では「丹波区(丹波高地)若丹地区」)のみが含まれています。
「京都一周トレイル京北コース」は全域が含まれるかと思いましたが、ごく一部ではあるものの、弓削から下熊田のあたりが公園区域から外れています。
また、この「枠内」であっても、例外として、天狗峠の南(能見川の源頭域)や、歴史的自然保全地域に指定される大悲山の南面(峰定寺さん)、ならびに常照皇寺さんの周辺、あるいは府自然環境保全地域に指定される片波川の源流域などが公園区域から外れています。
これは歴史的自然保全地域や府自然環境保全地域との兼ね合いの関係です。
京都北山を代表する山々、とくに、標高850mを上回る京都府の高峰のうち、愛宕山の山頂、桟敷ヶ岳の山頂が僅かに公園区域から外れていますが、その2座を除く標高850m以上の山(皆子山、峰床山、三国岳(久多三国)、光砥山(コウンド山) [2]、鎌倉山(カマクラ)、地蔵山、ブナノ木峠、傘峠、小野村割岳、天狗峠(天狗岳)、桑谷山(東西二峰)、竜ヶ岳、長老ヶ岳、雲取山 [3]、地蔵杉、イチゴ谷山(ヘラ谷奥)、愛宕山三角点峰、経ヶ岳、品谷山、滝谷山(別所山)、頭巾山、八宙山、鍋谷山、フカンド(深洞山)など)は全て含まれています。
一方で、「丹波富士」を称する「郷土富士」(ふるさと富士)である、半国山、牛松山、弥仙山といった山は全て公園区域から外れています。
南丹市美山町側にあたる芦生は由良川の、京都市左京区側にあたる広河原は桂川の源流域にあたり、前者は日本海へ、後者は瀬戸内海へ流出するため、いわゆる「中央分水嶺」にあたる山々を公園区域に内包します。
加えて、京都市左京区久多・大原は琵琶湖の源流のひとつである安曇川の源頭にあたります。
綾部市はかつての何鹿郡奥上林村(の一部)にあたる地域が公園区域にあたります(1955年4月10日、綾部市に編入)。
京都丹波高原国定公園 簡易マップ
「京都丹波高原国定公園」簡易マップ。参考用。
市町村で言えば、南丹市、京都市、綾部市、船井郡京丹波町の3市1町が公園区域に含まれます。
とくに、かつての北桑田郡美山町(現・南丹市美山町)はほぼ全域が公園区域に収まるため、おおむね全域が公園区域に収まる京都市左京区久多、広河原、花脊といった地域、それに、町域の広い範囲が公園区域に含まれる北桑田郡京北町(現・京都市右京区京北)と併せ、「京都丹波高原国定公園(仮称)」の中心地域とも言えます。
令制国で言えば、公園区域の広い範囲が丹波国にあたる地域で占められていますが、三国岳(久多三国)以南の久多、大原にあたる地域は、近江国との繋がりが強い地域ではあるものの、時代を問わず(所領ではなく国としては)山城国に属しており、近世以降は花脊も山城国に属していました。
そのため、「京都丹波高原国定公園(仮称)」の全域が丹波にあたるわけではありません。
公園区域のうち、久多、大原、花脊以外の地域、つまり、京北、美山、広河原、日吉、八木、和知、奥上林は丹波にあたります。
簡易マップに表示される番号との対応表
番号 | 名称 | 所在地 | 標高 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1 | 君尾山 | 京都府綾部市 | 543m | 光明寺 |
2 | 頭巾山 | 京都府綾部市 京都府南丹市 福井県大飯郡おおい町 | 871.0m | 綾部市最高峰 山頂は府県境 |
3 | 三国峠 (三国岳) | 京都府南丹市 福井県大飯郡おおい町 滋賀県高島市 | 776.1m | 山頂は府県境付近 |
4 | 三国岳 (久多三国) | 京都府南丹市 京都府京都市左京区 滋賀県高島市 | 959.1m | 南丹市最高峰 山頂は府県境付近 |
5 | 長老ヶ岳 | 京都府船井郡京丹波町 京都府南丹市 | 916.8m | 京丹波町最高峰 |
6 | かやぶきの里 | 京都府南丹市 | 255m | 美山町北 |
7 | 大野ダム | 京都府南丹市 | 160m | 由良川 |
8 | 八丁平 (峰床山) | 京都府京都市左京区 | 969.9m | 高層湿原 |
9 | 京北周山 | 京都府京都市右京区 | 240m | |
10 | 皆子山 | 京都府京都市左京区 滋賀県大津市 | 971.3m | 京都府最高峰・京都市最高峰 山頂は府県境 |
11 | 日吉ダム | 京都府南丹市 | 195m | 桂川 天若湖 |
12 | 花脊峠 | 京都府京都市左京区 | 769m | |
13 | 愛宕山三角点峰 | 京都府京都市右京区 | 889.8m | 愛宕神社が建つ最高点は区域外 三角点は区域内 |
公園区域に含まれる3市1町の最高峰、つまり、京都市最高峰の皆子山、南丹市最高峰の三国岳、京丹波町最高峰の長老ヶ岳、綾部市最高峰の頭巾山の4座は全て国定公園の区域内です。
長老ヶ岳、頭巾山といった山々は、その周辺山域に重点的に保護される「第1種特別地域」を有することも特色と言えるでしょう。
各市町の最高峰、「第1種特別地域」に指定される八丁平、あとは日吉ダムや大野ダムなどの場所を示しています。
他に示すとすれば、愛宕山三角点の上に右京区最高峰の地蔵山、国定公園の中央にあたる南丹市・左京区・右京区の境付近に佐々里峠やダンノ峠など。
北端近くの頭巾山(番号2)から南端の愛宕山三角点峰(番号13)までの直線距離は36kmで、これは大阪城から伏見桃山城までの直線距離と同等です。
西の長老ヶ岳(番号5)から東の皆子山(番号10)までの直線距離も35kmですので、南北、東西、それぞれ約40km程度の範囲内だと見なせます。
美山トレイルと若丹国境尾根
若狭丹波国境(京都福井府県境)の八ヶ峰。山頂の「美山 五山の一 八ケ峰」標。2011年(平成23年)5月。
八ヶ峰は「京都丹波高原国定公園」美山トレイル線の一部として整備される見込みです。
上は過去に若丹国境尾根を長距離縦走した際に撮影した写真です。
八ヶ峰は美山や若丹国境を代表する名峰で、林野庁により「森林浴の森100選」「水源の森百選」に選定された [4]美しい森林を有しています。
京都府側にあたる山域は「京都丹波高原国定公園(仮称)」の公園区域に含まれます。
美山の山は芦生だけではなく、他にも多くの山々を有しており、これを機会に広く目を向ける方が増えることも期待します。
「若丹国境尾根」は芦生研究林や高島トレイルの三国峠(近江・若狭・丹波国境)を東端に発し、~野田畑峠~杉尾坂~権蔵坂~五波峠~八ヶ峰~知井坂~西畑越~堀越峠~横尾峠~頭巾山~尼来峠~尼公峠~永谷坂~三国岳(若狭・丹後・丹波国境)と連なる長大な尾根です。
このうち、三国峠から尼来峠までの区間が「京都丹波高原国定公園(仮称)」の公園区域に含まれており、八ヶ峰から頭巾山までの区間は国定公園の施設計画に基づき「美山トレイル線」の一部として整備される見込みです。
この国境尾根は以前から若狭(福井県側)の山の会の方々が「県境稜線」と紹介なさっていたこともあり、京都府側の都合で「美山トレイル」(の一部)と命名するのは申し訳ない気もします。
もっとも、滋賀県(高島市)と福井県や京都府の「県境稜線」が「高島トレイル」と命名された先例もありますので、このあたりはなんとも言えません。
当初、美山トレイルは美山町の外縁付近(厳密に外縁を辿るわけではありません)を一周するトレイルコースとして計画されており、高島トレイルと連係する見込みでした。
そのため、2014年(平成26年)版の「高島トレイル詳細マップ」には「平成27年美山トレイル開通予定」と記されています。
調査段階で違法性が高いと考えられる伐採やマーキングが芦生研究林内で行われたり、このトレイルについては何かと問題点が指摘されていましたが、公園計画書を見るかぎり、芦生研究林にあたる区間はトレイルから外されたようです。
京都丹波高原国定公園の名称について
兵庫県、京都府、大阪府、福井県、滋賀県に跨る広域的な「丹波高地」に対し、現時点での仮称ではありますが、公園区域の名称を「京都丹波高原」としています。
広域的な「丹波高地」の呼称は国土地理院も採用しているもので、「公園区域位置図」の中央にも「丹波高地」と明示されています。
個人的には公園区域も高地性ではないかと考えており、これほど広い範囲に跨る山地の全体を指して「京都丹波高原」とする仮称には違和感を覚えています。
もっとも、「高地」と「高原」の明確な区分はないそうで、このあたりは印象の問題に過ぎません。
私が「高原」と聞いて思い浮かぶ景色は、同じ近畿地方(関西)であれば、和歌山の生石高原や奈良の曽爾高原、あるいは金剛和泉の大和葛城山や岩湧山といった山々の風景、それに播磨但馬の広々とした高原地帯の風景です。
それぞれが有名な観光資源でもあり、そういった点でも「高原」のほうが聞こえがよいのでしょうか。
公園区域に該当する地域を指して「丹波高地」としている例。
丹波国の京丹波町、南丹市美山町以南を京都府中部地域という。丹波高地はこの地域の中・北部を中心に広がる。
「地形の概要|京都府自然環境目録」
https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/mokuroku/geo/surface_g.html
「丹波高原」としている例。
中央部は丹波高原と呼ばれる山地で、日本列島の脊梁山脈の一部であり、京都府域を日本海側と太平洋側とに区分している。
「地域生態系の概要|京都府自然環境目録」
https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/mokuroku/eco/system_g.html
国定公園に指定されると?
国定公園に指定されると、「施設計画」に基づき、「園地」や「道路」「歩道」の開発・整備が進められます。
「園地」は自然探勝・登山の基点や拠点となる施設、あるいは森林公園などの整備。
「道路」は他の地域から「園地」へ向かう車道などの整備。
「歩道」はハイキングコースや周遊路、遊歩道などの整備。
それぞれ、一例を引用。
園地
「八丁平」
八丁平湿原周辺探勝利用者のための園地として整備する。
車道
「花脊峠線」
京都市街方面からの連絡車道として整備する。
花脊周辺部の自然・文化的景観を探勝する車道として整備する。
歩道
「皆子山登山線」
皆子山からの展望及び皆子山周辺の自然景観を探勝する登山歩道として整備する。
一見すると、これらの計画は多くの利用者にとって便利になるように思えますが、物事は相反する面を合わせ持つのが常です。
- 美山や花脊に対するアクセスが容易になり、国定公園指定効果と併せ、観光客が増加する
- 整備されることにより、深い植林帯や道なき樹林帯、荒れた登山道での道迷いが減少する
- 特別地域に指定されることにより、「法的に」景観・自然環境・生態系・動植物が保護される
- トレイルランのレースやツアー、自然体験、キャンプが今以上に活発化する
となる可能性がある一方で、
- 容易なハイキングコースとなり、奥深い京都北山らしさが失われる
- 対応が進む前に入山者や入林者が増加し、オーバーユースとなる(とくに芦生)
- 環境の変化に伴い、「人為的に」自然環境・生態系・動植物・多様性が失われる
- 一部の特別地域では幕営(テント泊)が禁止される
ともなる可能性があります。
これらは過去の国立公園、国定公園整備事業でも起きた、指摘されてきた利点や欠点です。
現在、芦生研究林の一般利用者は美山町芦生須後・斧蛇の研究林事務所側からのみ入林が認められていますが、周辺の園地や登山道の整備により、佐々里峠など、他のコースから無許可で不用意に研究林内へ侵入するケースが今まで以上に増加し、結果的に自然破壊や事故、遭難が増えることを危惧する方もいらっしゃいます(無許可入林者の遭難死亡事故も後を絶ちません)。
他にも、十分に検討したうえで選定したとは思えない、実現や利用には困難を伴うであろう園地・歩道も設定されています。
たとえば、公園区域に含まれる山のうち、京都・滋賀の府県境や京都・福井の府県境に所在する山について、それぞれ他県側や県境からのアプローチが一般的だと考えられる山が含まれているにもかかわらず、公園区域の都合から京都府側を起点として京都府下のみを歩く「歩道(登山線)」を設定している例が見受けられます。
京都府が掲げる「森の京都」構想と併せ、利用と保全、双方の観点から適切に整備されることを望みます。
今回、私が記事を公開する目的は国定公園化の周知を図ることであり、私個人の意見を押しつけることではありません。
立場が変われば意見も異なることは重々承知しております。
ただ、自然と同様、人間の考えにも多様性があってしかるべきで、どのような内容であれ、各人が自分なりの意見を持ち、それを表明することには意味があると考えています。
この国定公園化や、その事業内容を事前に正しくご存じだったのが、なぜか、ごく一部の観光事業者の方に限られており、密室の中で物事が進められていることに対して一抹の不安が過ります。
周りからお話を伺うかぎり、京都の山について一定以上の知識を持つ多数の人間から広く意見を募り、それを基に施設計画を立てたわけではなさそうです。
追記
中央環境審議会自然環境部会の開催
2016年2月23日に中央環境審議会自然環境部会が開催され、「京都丹波高原国定公園(仮称)の指定及び公園計画の決定」に関する諮問が行われます。
(お知らせ)中央環境審議会自然環境部会(第29回)の開催について
https://www.env.go.jp/press/102045.html
傍聴の申し込みは2月18日17時必着。
(→締め切られました)
パブリックコメントの結果公示
2016年2月17日にパブリックコメントの実施結果が公示されました。
京都丹波高原国定公園(仮称)の指定及び公園計画の決定に関するパブリックコメントの実施結果について
https://www.env.go.jp/council/12nature/y120-29/ref02_1.pdf
気になったのが、「名称について」の項で、
公園指定予定区域がほぼ旧丹波国に当たること
とありますが、「ほぼ」(=全部に近い状態、99%)とまで断じるのは難しいでしょうか。
たとえば、要とも言える「第1種特別地域」に指定される見込みの八丁平湿原は全域が山城国にあたります(山城国愛宕郡久多荘→京都府愛宕郡久多村字下村→京都府京都市左京区久多下の町)。
京都市左京区久多、大原、花脊といった、旧山城国にあたる地域の面積を過小に評価した見解に思われてなりません。
正しく示している例。
京都市左京区は北へ美山町の東まで広がっているが、山城国がそうだったのである。
「地形の概要|京都府自然環境目録」
https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/mokuroku/geo/surface_g.html
府の自然環境目録を編集なさった方は正しい知識をお持ちです。
追記しておきますと、この件で久多に縁ある方がお怒りでしたが、正直、無理もありません。
「ほぼ旧丹波国に当たる」という見解は、さすがに地理に疎すぎます。
はじめから「京都丹波」という名称ありきの国定公園計画でしたので、外部の人間が正しく指摘しても無駄だろうとは考えていましたが……。
中央環境審議会の答申
2016年2月23日に開催された中央環境審議会の答申により、「京都丹波高原国定公園」の指定が承認されました。
(お知らせ)西表石垣国立公園の拡張及び京都丹波高原国定公園の新規指定に係る中央環境審議会の答申について
https://www.env.go.jp/press/102102.html
2016年3月下旬の官報告示を以て、正式に指定される見通しです。
国定公園の指定日が決定
2016年3月25日、「京都丹波高原国定公園」が国定公園として指定されます。
(お知らせ)京都丹波高原国定公園の指定日について
https://www.env.go.jp/press/102249.html
2016年3月25日、「京都丹波高原国定公園」が新たに国定公園として指定され、同日の官報で告示されました。
環境省告示第二十八号
自然公園法(昭和三十二年法律第百六十一号)第五条第二項の規定に基づき、京都丹波高原国定公園を指定したので、同条第三項の規定に基づき、次の通り公示する。
(中略)
平成二十八年三月二十五日
(以下略)
官報 平成28年3月25日付 号外 第68号
附
芦生の紅葉
芦生の黄葉、紅葉。京都丹波高原国定公園に指定される見込みです。2011年11月。
芦生研究林(芦生演習林)の全体を指して「芦生原生林」と呼ぶ方がいらっしゃいますが、研究林の全域が「原生林」だと誤解させるような言い回しは適切ではなく。
もちろん、原生的な森林も広く残存していますが、芦生は古くより里山としても利用されており、二次林と見なせる範囲も狭くありません。
所長さんの受け売りですが、「原生林的な風景が残されている場所」「原生林が残る芦生研究林(芦生の森)」などが適切でしょう。
残存する「原生的な自然林」にあたる山域が「京都丹波高原国定公園(仮称)」の「第1種特別地域」に指定される見込みですが、この範囲の選定が誤っているとの指摘が出ています。
いわば「京都丹波高原国定公園(仮称)」の核心部とも言える山域ですので、慎重に検討していただきたいものです。
高島トレイルの延伸
三国岳・経ヶ岳(経ガ岳)・岩谷峠の分岐。高島トレイル南端付近。2011年8月。
高島市朽木(近江国)・京都市左京区久多(山城国)・南丹市美山(丹波国)の旧三国境。
いわゆる「高島トレイル」は中央分水嶺を辿るトレイルコースであり、これまで三国岳(~桑原橋)を終点としていましたが、中央分水嶺から外れ、高島市を巡る全長151kmのロングコース「ラウンド高島(仮)」の一部として、三国岳から経ヶ岳以南(から果ては琵琶湖まで!)へ延伸することが内定しています。
いつぞや、高島トレイルの関係者さんらと食事した際、延伸コースの予定地図も見せていただきました。
このことを当方で公表しても構わないかとお尋ねしたら、別に構わないとおっしゃったので、当ウェブサイトでも話の種として取り上げようと考えていましたが、時間が足りずに先送りしているうちに、あっという間に時は流れ。
「三国峠~地蔵峠~三国岳~経ヶ岳~イチゴ谷山(ヘラ谷奥)」と連なる尾根は「京都丹波高原国定公園(仮称)」の公園区域にも含まれるため、今回の記事で合わせて紹介しておきます。
北陸新幹線の敦賀以西延伸と芦生、京都北山
北陸新幹線の未着工区間である敦賀~大阪の区間について、「米原ルート」案、「湖西ルート」案、「小浜ルート」(若狭ルート)案に加え、「小浜・京都ルート」(JR西日本が検討する独自ルート)案が提示されています。
1973年(昭和48年)に決定された「新幹線鉄道の建設に関する整備計画」(整備新幹線)によると、北陸新幹線の区間を「東京都・大阪市」、主要経過地を「長野市附近・富山市附近・小浜市附近」と定めており、北陸新幹線は当初より小浜市を経由するルートを想定していました。
ただし、整備新幹線の時点では小浜市と大阪市の間で京都市を経由すると定めていたわけではなく、「小浜・京都ルート」は近年になりJR西日本さんが新たな候補として提案したものです。
この「小浜・京都ルート」案のルート図(予想図)を見るかぎり、「京都丹波高原国定公園」の第1種特別地域に指定される見込みの地域と予定ルートが重なる可能性がありそうです。
今後の展開に注目します。
追記。
2016年1月22日付の読売新聞さんの記事によると、JR西日本さんが検討する「小浜・京都ルート」が有力とのこと。
北陸新幹線延伸、京都ルート有力…与党でも大勢 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160121-OYT1T50206.html(リンク切れ)
ルート案図(イメージ)を見るかぎり、有力視される「小浜・京都ルート」は芦生の三国峠の西側を通っていますね。
あくまでもイメージですので、必ずしも芦生を通過すると決まったわけではありません。
2016年3月10日付の各紙の報道によると、「湖西ルート」案と「小浜ルート(京都駅を通さない旧小浜ルート)」案が検討対象から外れ、「米原ルート」案、「小浜・京都ルート」案、「小浜・舞鶴経由の京都ルート」案から決定されるとのこと。
北陸新幹線延伸、京都駅経由の3案に 与党検討委:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJ3B5JYYJ3BULFA02J.html(リンク切れ)
3月11日付の朝日新聞さんの記事では、以前の他紙の記事と異なり、「小浜・京都ルート」案のルート図(予想図)が三国峠の東側(僅かに滋賀県側)を通っています。
現時点での予想図は参考程度ですね。
上の記事では「5月までに国交省に調査を求めるルートを決める」としているものの、その後、動きがありません。
北陸新幹線の大阪延伸、年内のルート選定断念へ:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJBK5RNSJBKULFA01Z.html(リンク切れ)
10月18日付の朝日新聞さんの記事によると、「年内の決定を先送りする調整に入った」とのこと。
北陸新幹線の延伸、小浜・京都ルートに 政府・与党方針:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJD75SHPJD7UTFK018.html(リンク切れ)
「年内の決定を先送りする」と報道されていましたが、一転して年内に決着しそうです。
12月8日付の朝日新聞さんの記事によると、「小浜・京都ルートを採用する方針を固めた」とのこと。
同日付の京都新聞さんの記事によると、京都駅~新大阪駅間は北摂を経由する「北回り」ではなく、京田辺を経由する「南回り」で最終調整する方針とも見えます。
けっきょく、「小浜・京都ルート」で決まりそうですが、具体的なルートの選定や、並行在来線の問題など、まだ不透明な点ばかりです。
一部、勘違いなさる方がいらっしゃるようですが、採用が予定される「小浜・京都ルート」を提案したのはJR西日本さんであり、京都府側の要望していたルートではありません。
北陸新幹線が芦生を通過する可能性をネット上で最初に指摘したのは私ですが、本記事をご覧になった方々により、多くの意見が出たことを喜ばしく思います。
芦生研究林基金
2016年12月、「芦生の森」を守り、未来に遺していくため、新たに「京大芦生研究林基金」と称した基金が設立され、一般からの寄付を募る運びとなりました。
芦生研究林基金 | ~大学の森を守ろう~
https://fserc.kyoto-u.ac.jp/wp/asiufund/
「京都大学 芦生研究林」が抱える、いわゆる「2020年問題」等の諸問題について、京都大学さん側から説明がなされています。
脚注
- ここでは昭文社発行「山と高原地図」の「京都北山1」「京都北山2」に含まれる範囲を山地としての「京都北山」と見なしておきます。[↩]
- 「光砥山(コウンド山)」は小野村割岳の南東0.94kmに所在する標高点951m峰を指す近年の俗称。この標高点951m峰について、以前は一部のハイカーの間で「佐々里岳」と呼ばれていたことを確認しています。しかしながら、地名としての佐々里からは遠すぎることに加え、『京都府北桑田郡誌』では「佐々里岳」を黒田村と知井村の境の山としており、全く異なる地点であるため、その呼称には大いに疑問が残るところでした。コウンド谷を詰めた頂であることから、最近は標高点951m峰を「光砥山(コウンド山)」とも呼ぶ方もいらっしゃるようです。ただし、あくまでも近年の俗称であることに留意。『京都府北桑田郡誌』の附図によると、本来の「佐々里岳」は黒田村の北西端。[↩]
- 地蔵杉山、三ツ叉山(三ツ又山)、くまさ山、北雲取山(タカセ)、雲取山北峰といった、いずれも標高850m以上の周辺峰を含みます。以前は雲取山の北1.14kmに所在する約900m小ピークを「北雲取山」、その北西の標高点829m峰を「高瀬山」と呼んでいましたが、近年は北雲取山を指して「タカセ」と呼ぶ方もいらっしゃるようです。[↩]
- ただし、いずれも福井県側にあたる森を選定。[↩]
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