2016年(平成28年)10月、爽やかな秋晴れの日。
この日は「確認したいこと」があり、近年、整備された「如意越(にょいごえ)」の古道をハイキング。
大津市の三井寺さんを起点とするのが正規のコースと言えますが、小関越の峠(小関峠)から長等山に取り付き、坊越峠で三井寺や藤尾からのコースと合流し、長等山山頂の分岐まで一気に登ります。
このあたりは分かりやすい道標も設置されており、「如意越」でも大津市側にあたる長等山の周辺に限れば、とくに道に迷う心配はないでしょう。
京都市の如意ヶ岳(如意ヶ嶽)や大文字山方面へ縦走する「如意越」のメインコースからは外れますが、せっかくですので長等山を登頂しておきます。
目次
滋賀県大津市 長等山
長等山。標高点354m峰。如意越から少し外れています。滋賀県大津市。
この「長等山(ながらやま)」は地理院地図にも山名が見える標高点354mの山で、三井寺さんの裏山にあたります。
写真では奥の開けているあたりに琵琶湖が望めますが、上の写真では分かりません。
前回の記事に長等山から琵琶湖や鈴鹿北端の霊仙山を撮影した写真を掲載しています。
今回はその続きです。
長等山山頂の分岐道標まで引き返し、西の如意ヶ岳方面のコースを取ります。
分岐から次の道標までは急な登りですが、あとは京都市側に入るまで歩きやすい山道が続きます。
如意越を長等山から如意ヶ岳へ
如意越メインコース。「如意ヶ岳← 如意越 →長等山・三井寺」道標。別所三角点の分岐。
私が見落としている可能性もありますが、現状、古道「如意越」の道標はここまでのようで、京都市側に入ると見当たらなくなります。
土地の権利関係もあり、私的な道標(私設道標)は誰でも自由に設置してよいわけではありません。
古道「如意越」のコースとしては、この後、京都市左京区に入って灰山(灰山遺跡、灰山城跡)の南を通り、如意ヶ岳の管理道のガードレールを越え、通行できない如意ヶ岳の山頂を巻き、如意寺本堂跡(おねがい観音さん)や雨社から京都一周トレイルに合流し、鹿ヶ谷の霊鑑寺さんへ下るコースだと考えられます(が、道中は少し異なるかもしれません)。
いにしえの「如意越」と同様、長等山や如意ヶ岳、あるいは大文字山の山頂は登頂せず、付近を通過するのみとなります。
「如意越」は登山を目的とするものではなく、あくまでも近江から京へ通じる峠道ですから当然と言えるでしょう。
上の道標には示されていませんが、道標の後方の踏み跡を北に辿っていけば、別所の三角点へ至ります。
一般的にハイカーの間では「長等山三角点」と呼ばれており、現地にも某ピークハンターさんの山名標などが取り付けられています。
「如意越」の道標には北に三角点があるとは示されていませんが、わざわざ分岐となる上の写真の地点に道標を設置しており、ここから行けと言わんばかりです。
千石岩などと絡めたハイキングコースとして利用されますが、近くの皇子山ゴルフクラブさんとの関係もあり、場所を示しにくいのかもしれません。
「如意越」からは外れ、寄り道となってしまいますが、ついでなので少しばかり足を延ばすことに。
道中、左手にゴルフコースの柵がありますが、それを飛び越えたと思わしきゴルフボールも転がっています。
小ピークを乗り越えれば三角点です。
長等山三角点に寄り道
長等山三角点。三角点370.1m(点名「別所」)。如意越から大きく外れた脇道です。
「別所(べっしょ)」の点名は、設置当時の所在地住所(大津市大字別所字五別所→大津市大字別所字別所→大津市園城寺町)に由来します。
京阪電気鉄道石山坂本線の駅名にも採用されていますね(→もはや、別所の地名では伝わりにくいようで、2018年3月のダイヤ改正より、別所駅は「大津市役所前駅」に改称されました)。
もっとも、その住所地名じたい、三井寺さんの別所に由来しますが……。
頂には休憩用のベンチが置かれていますが、樹間に西大津の街が僅かに見えるのみで、見晴らしのようなものは期待できません。
すぐ近くに好展望地として知られる千石岩があるので、今後も開かれる可能性は低そうです(などと書いていたら、三角点の北側へ少し下った先の岩場が「長等山テラス」として整備され、展望地として開かれました)。
ゴルフ場さんもハイカーの通行を黙認なさっているうえ、クラブハウスからの見晴らしも良いので……。
三角点や千石岩からは早尾神社さんや皇子が丘公園へ下山できます。
このコースは地理院地図では破線路すら表示されず、やや険しいですが、道そのものは明瞭です。
長等山でヤマビル(山蛭)が?
常連さんらが登山回数を記録する記帳用のノートが付近の樹に吊るされています。
何気なく開いて目を通してみたら、「山蛭に生き血を吸われ」(一部を引用)と記されていました。
日付は2016年10月某日で、私が訪れる数日前の出来事のようです。
上の記事で取り上げていますが、2014年(平成26年)に大文字山でヤマビルの被害例が出たらしいという話がありました。
ところが、実際に見た方や被害に遭われた方のお話は聞けず、これは「都市伝説」ならぬ「山伝説」の類ではないかと考えていました。
もう何年も前から比叡山にヤマビルが進入していることは把握しており、「いずれ、私自身が大文字山で姿を見る可能性も十分にありえるものと見ている」とも述べておきました。
長等山三角点のノートに記された「山蛭」は何かの例え、比喩表現の可能性もありますが、一般的にヤマビルと呼ばれている生物を指しているのであれば、ついに比叡山から長等山まで生息範囲を広げたことになります。
これは私見ですが、比叡山地(京都東山)において、シカ(鹿)やイノシシ(猪)の個体数が増加したことや、クマ(熊)の行動範囲が南下していることと、ヤマビルの南下は無関係ではないと考えています。
ちょうどヤマビルの活動も終わる時期ですので、来春以降、実地で調査する予定です。
現状、私自身は大文字山でヤマビルを見ていません。
長等山三角点から「如意越」の道標まで引き返して西進します。
私にとって、この先が今回の山行の本題のようなもので、記事の冒頭で述べた「確認したいこと」です。
ただし、一般的にはきわめてどうでもよい話ですので、「長等山はどこ?」に興味が湧かない方は読み飛ばすのが良いでしょう。
記事の最後に、おそらくインターネット上では未出だろうと思われる、ある風景の写真を掲載していますので、そちらをどうぞ。
もうひとつの長等山
長等山の山頂はどこ?
つい10年ほど前まで、「長等山」と聞いて、どの山を思い浮かべるかはハイカーの間でもまちまちで、私は国土地理院の地形図に名前が見える標高点354mの山を「長等山」と呼んでいましたが、三角点370.1mを「長等山」と呼ぶ方もいらっしゃいました。
近年になり、標高点354mの西0.8kmに所在する標高点408mを「長等山」と呼ぶ方まで現れ、より複雑となっていました。
この標高点408mは京都市左京区との府県境も近く、以前より「皇子山」とする山名標が設置されており、私も基本的にはその呼称を採用していますが、これは近くのゴルフ場さんの名前に由来すると考えられ、何百年も歴史があるような山名ではありません。
長等山は古くは「三井寺山」とも呼ばれており、「長等山」を山号とする三井寺さんの直接的な裏山にあたる標高点354mの山を「長等山」と呼ぶのがふさわしいと考えていましたが、「長等山」には「長く等しきの意もある」ので、周辺の山域をも広く「長等山」と見なしても誤りとは言えません。
ただ、「長等山の山頂はどこか」となると、1ヶ所に絞る必要があるでしょう。
標高点354mの山に「長等山」の山名標が設置され、古道「如意越」の整備に伴い、近くの道標に「長等山山頂」と示されましたので、これで標高点354mを「長等山の山頂」と確定できる……、と考えていました。
そのあたりの話は上の記事に詳しく、今回の話はその続き、あるいは補足となっています。
よって、上の記事と、できれば前回の記事に目を通していただくほうが、今回の記事の内容は分かりやすいでしょう。
地方公共団体は国土地理院とは別の山を長等山と見ている?
これで標高点354mを「長等山の山頂」と確定できる……、はずでしたが、大津市の都市計画図を調べてみると、大津市では別の山を「長等山」としていることに気付きました。
長等山・如意越・皇子山カントリークラブ周辺の大津市都市計画図より。
大津市では意外なピークを長等山としています。
大津市の都市計画図では、地理院地図において標高点354mの山や、三角点370.1mの山、あるいは標高点408mの山は全て無名峰の扱いです。
代わりに標高点354mの西0.4kmの小ピークを「長等山」としており、その東の尾根にも「長等山」と表示しています。
これは大津市の都市計画図であり、西端の京都市側に入ると空白となっています。
当然ながら、京都市の都市計画図では大津市側は空白で表示されると思いきや……。
長等山・如意越・皇子山・灰山周辺の京都市都市計画基本図より。
大津市の都市計画図と同様で、地理院地図とは異なる山を「長等山」としています。
大津市側にあたる山域にもかかわらず、京都市の都市計画基本図にも「長等山」周辺の地形図が描かれていました。
ベースとなっている背景地形図(二千五百分一)は大津市の都市計画図と似ていますが、より詳細な標高値を重ねています。
これを見るかぎり、京都市の都市計画基本図でも大津市と同じピークを指して「長等山」と示していますね。
右下端の351.0mが地理院地図における標高点354m峰(長等山)で、上端の370.32mが地理院地図における三角点370.1m(長等山三角点)で、左端の389.5mが京都市側の灰山です。
どうやら地方公共団体(自治体)では約400m小ピークを「長等山の山頂」と見なしているようです。
これは他の山地図やハイキングマップなどでも見られない位置取りで、個人的に興味をそそられました。
地形図に見る長等山
長等山・長等山三角点・皇子山・如意越周辺の地図。
現行の地理院地図(標準地図タイル)を元に作製しています。
地理院地図と重ねてみると、大津市や京都市の都市計画図で「長等山」と表示される山は中央の約400m小ピークだと分かります。
この小ピークはハイキングコースからは僅かに外れており、もちろん近くは通っていますが、今まで頂は踏んでいないように思います。
今回、古道「如意越」を長等山から如意ヶ岳へ縦走するにあたり、ぜひとも立ち寄りたい小ピークでした。
大津市や京都市が長等山としている小ピーク
大津市や京都市が「長等山」としている約400m小ピーク。赤黒の境界杭のみ。
先ほどの道標から西進し、「如意越」のコースから適当に取り付くだけでよく、約400m小ピークそのものは容易に訪れることができます。
もっとも、現地は赤と黒の境界杭が埋められているだけで、とくに山名標のようなものは見当たりません。
ここを大津市や京都市が「長等山の山頂」と見なしていることは知られていないのでしょう。
あっさりしたものですが、これで今回の「確認したいこと」の話も終わりです。
当初は「如意越」を利用して日没時に大文字山を登頂し、京都西山の向こうに沈むであろう夕日を拝む予定でした。
ところが、ただでさえも出遅れたうえ、長等公園で伊吹山を撮影したり、小関越で山野草やお花を観察したり、長等山三角点でヤマビルの記録を拝読したり、「新たな長等山」に寄り道していたら、京都市側に入り、如意ヶ岳の管理道に出たあたりで17時前となってしまいました。
これからどれだけ急いでも日が暮れるまでに大文字山を登頂できそうになく、間に合わないと分かっているのに薄暗い山中を駆ける気も起きません。
どうしたものか思案し、視界ぎりぎりですが、如意ヶ岳の管理道から大きく山を下ったあたりから大阪方面を見通せることを思い出し、そちらを訪れてみることに。
すると、今まで大文字山や如意ヶ岳では見たことがない、ある美しい光景を目にすることができました。
京都市左京区 如意ヶ岳の展望・眺望
淡路島や大阪港周辺を遠望
夕暮れ時の如意ヶ岳から淡路島や大阪湾に聳えるコスモタワーを遠望する。京都市左京区。
主な山、建築物 | 距離 | 標高 (地上高) | 山頂所在地 | 備考 |
---|---|---|---|---|
諭鶴羽山 | 127.2km | 608.0m | 兵庫県南あわじ市 | 淡路島最高峰 |
柏原山 | 118.0km | 568.9m | 兵庫県洲本市 | |
大阪府咲洲庁舎 | 56.6km | (256m) | 大阪府大阪市住之江区 | コスモタワー |
梅田スカイビル | 46.4km | (173m) | 大阪府大阪市北区 |
この日は空気が澄んで遠くまで見えやすく、如意ヶ岳から大阪方面が明瞭に見えていました。
ただし、本当に決定的とも言える好条件の日の見え方には全く及びません。
上の写真の構図の左には大阪の高層ビル群が林立し、さらに左には「あべのハルカス」の姿も見えていました。
如意ヶ岳ではなく、大文字山の山頂(三角点)から京都西山の稜線越しに淡路島最高峰の諭鶴羽山や、諭鶴羽山地の高峰を見通せます。
これは過去の記事でも何度か写真を掲載しており、昔から当ウェブサイトをご覧の方であれば既知の話でしょう。
ところが、経度が東に動く如意ヶ岳からであれば、間を京都西山に遮られることなく淡路島の南東部を遠望できます。
このことじたいは以前から把握していましたが、現状、如意ヶ岳から淡路島方面が明確に開けた展望地は存在しない、と考えていました。
この淡路島南東部の見え方は比叡山からの見え方と似ていますが、比叡山や大文字山の山頂より標高が下がるので、残念ながら大阪湾の海面は見えにくいようです。
比叡山の展望地や大文字山の山頂からであれば、太陽の光が反射して煌めく大阪湾の海面も確認できます。
ただ、当地から大阪湾の海面が「見えない」か、ぎりぎり「見える」か、これは大阪湾に日が差す時間帯に確認しないと判定できません。
水平線(地平線)の向こうとなるため、淡路島南東端の生石鼻の先や成ヶ島は見えません。
また、大文字山の山頂と同様、あくまでも淡路島南東部が見えるのみで、淡路島の北部や明石海峡などは見えません。
「基盤地図情報(数値標高モデル)10mメッシュ」(10mDEM)を基に計算すると、撮影地点から友ヶ島のコウノ巣山の山頂域のみ見通せるはずですが、実際には見えないようで、上の写真には写っていません。
より精度が高い「基盤地図情報(数値標高モデル)5mメッシュ」(5mDEM)で確認してみると、撮影地点の標高は10mほど低くなり、計算上では友ヶ島が(ほぼ)見えないことが分かります。
ですが、大文字山の山頂から見える天保山大橋や此花大橋だけではなく、大文字山の山頂からは見えない大阪港周辺の他の建築物や構造物も写っており、なにより淡路島の見え方が素晴らしく、何年も何年も登り続けてきた大文字山や如意ヶ岳で、また新たな感動を覚えました。
飛行機や梅田スカイビルの場所は示していますが、時間が足りず他は示していません。
ぎりぎりですが、此花大橋の主塔が中央付近に写っていますので、興味がある方は探してみてください。
長くなってきたので記事を分けます。
続きは上の記事に。
関連記事 2016年10月 如意越・長等山ハイキング
すべて同日の山行記録です。併せてご覧ください。
- 長等公園 桜広場から伊吹山を遠望 上栄町駅~高観音近松寺
- 大津 長等公園~小関越~如意越 ツリフネソウやミゾソバの花
- 如意越古道で長等山ハイキング 小関峠~坊越峠 霊仙山を遠望
- 長等山三角点~如意越 ついに如意ヶ岳周辺にヤマビル山蛭が
- 京都の如意ヶ岳から淡路島最高峰の諭鶴羽山を遠望 如意越古道
- 京都の如意ヶ岳から大阪の高層ビル群や金剛山、生駒山を遠望
長等山三角点(地理院 標準地図)
「長等山(ナガラヤマ)(ながらやま)」標高354m
滋賀県大津市
「長等山三角点」 あるいは「別所三角点」
標高370.1m(三等三角点「別所」)
滋賀県大津市
「如意ヶ岳(ニョイガタケ)(にょいがたけ)」
標高472m
京都府京都市左京区
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