国立京都国際会館の花火を大文字山から遠望 宝が池 京都市

今年、2016年(平成28年)の「五山送り火」(京都五山の送り火)当夜の京都市は生憎の悪天候。
大雨が降る中で眺めたものの、如意ヶ嶽の「大」の字跡をはっきりとは確認できなかった方も多かったのではないでしょうか。
私はやや離れた山の上から傘を差して見守っていましたが、20時過ぎに「大」の字の一画目にあたる横棒に火が点いた後、なかなか二画目以降が点火されません。
火が消えてしまったのか、ついには一画目まで見えなくなったので、そこで諦めて山を下りてしまいました。
ところが、しばらくして山中から真っ赤な「大」が浮かび上がっているのが見え、これは下山を早まったと思いましたが、土砂降りの中でカメラを出す気は起きず、今年は「大文字」の写真は撮影していません。
「妙法」「舟形」は遠目にも字跡が綺麗に見えていましたので、とくに大文字山の周辺で雨が激しく降っていたのではないかと推測しています。
あの天気の中で点火作業に従事された各山の皆さまには頭が下がります。

宝ヶ池の花火を大文字山から撮影

さておき、2016年7月31日の話。
この日は愛宕神社さんの千日詣りで、宝が池の周辺で上がる花火を観賞がてらに愛宕山を登拝する予定でした。
準備も整えていましたが、直前に激しく夕立が降ったことに加え、どうも体調がすぐれず、雨上がりに無理をしてまで愛宕山を登る気が起きません。
千日詣りの夜は愛宕山にいることが多く、逆に他の山から「千日詣りの夜の愛宕山」がどう見えるか知りたいと考えていたこともあり、大文字山をナイトハイクすることに。

国立京都国際会館「乾杯の夕べ2016」の打ち上げ花火、フィナーレ部分を大文字山から動画で撮影。
30秒ほどの短い内容です。音声無し。

夜間なので分かりにくいですが、花火の手前が「妙法」の山(松ヶ崎の山)で、その向こう、岩倉盆地側で花火が打ち上げられました。
補足しておきますと、右端が「法」の山で、左端が林山(ドンドコ山)や狐子坂(狐坂)です(が、暗くて分からないでしょう)。

京都の夜景と宝ヶ池・国立京都国際会館の花火大会を大文字山から撮影 2016年7月
京都の夜景と宝ヶ池・国立京都国際会館の花火大会を大文字山から撮影。

これは毎年夏に国立京都国際会館(ICC Kyoto)で開催される「乾杯の夕べ」に伴う打ち上げ花火です。
日程は毎年のように変わりますが、今年は2016年7月30日と31日の両日に行われました。

比叡山と国立京都国際会館「乾杯の夕べ2016」花火大会を船岡山から遠望 2016年7月

木津川市の花火大会と伏見桃山城を船岡山から遠望 京都の花火

2016.08.05

前夜の7月30日は船岡山から撮影しました。

この花火大会の当日は霞んで遠くが見えにくいことが多く、昨年は京都北山の山の上から眺めましたが、京都タワーのライトアップすら肉眼では場所が分からない有り様でした。
今年は両日ともぼちぼち好条件で、31日の夜も次々と打ち上げられる花火が大文字山の上から綺麗に見えていました。

大文字山から京都の夜景と宝ヶ池・国立京都国際会館の花火大会を動画で撮影。
オープニング部分(厳密にはオープニングから少し経ってから連発花火部分)。約1分30秒。

大文字山の「大」の字の火床には先客として他のグループがいらっしゃいました。
その方々に打ち上げ花火の撮影に訪れたことをお伝えし、その炸裂音を録音したいので、開幕時の数分間だけで結構ですので、できれば声をあげずに私と一緒に花火を観賞して欲しいとお願いしてみたら、快く応じてくださいました。
ですが、録画した動画を後で確認してみたら、火床で鳴く虫さんの大きな金切り音が気になってしまい、けっきょくのところ、炸裂音ともどもカットすることに。
せっかく無理にお願いしたのに申し訳ないことをしました。
この夜、花火大会が行われることはご存じなく、大文字山にいらっしゃったのは偶然とのこと。
遠くの夜空で花開く夏の風物詩を楽しんでくださったのは幸いです。

登山の経験も豊かと察せられる会話内容でしたので、おそらくインターネット上のどこかで当夜の山行記録を公開されるのではないかと考え、しばらく様子を見ていましたが、私の分かる範囲内では見当たりません。
改めて、こちらでお礼ならびにお詫び申し上げます。

「乾杯の夕べ」は京都市内で唯一の打ち上げ花火?

京都市の花火大会 国立京都国際会館「乾杯の夕べ2016」の打ち上げ花火を遠望
京都市の数少ない花火大会、国立京都国際会館「乾杯の夕べ2016」の打ち上げ花火を遠望する。

これは京都市で打ち上げられる数少ない花火ですが、右京区京北の「宇津夏祭り」や「京北夏まつり」でも花火が打ち上げられますので、「京都市内で唯一の打ち上げ花火」ではありません。
また、不定期ながら、冬や春など他の季節にも(学会が開催されるなどの理由で)国立京都国際会館で花火が上がりますので、たとえ京北地域を除いたとしても、「乾杯の夕べ」が唯一というわけではありません。
よって、「乾杯の夕べ」を「京都市内で唯一の打ち上げ花火」としている報道や記事は誤りだと考えられます。
もちろん、京都の夜景と合わせて観賞できる貴重な打ち上げ花火ではあります。

これらはあくまでも他の催しに伴う打ち上げ花火であって、いわゆる「花火大会」ではないと考えられますが、「乾杯の夕べ」については、「国立京都国際会館の花火大会」とする記事も見受けられます。
また、古い記憶をお持ちの方の中には、「あれは花火大会だった(ような気がする)」とおっしゃる方もいらっしゃいました。
そこで、少し調べてみると、国立京都国際会館さんの広報誌である「ICC Kyoto Summer 2015号」に、

国立京都国際会館の不思議2
人しれず宝ヶ池に上がる花火とは?
(前略)
国立京都国際会館では、日本初の国際会議場が誕生した2年後の1968年から、究極のおもてなしをめざす花火の演出が行われている。
(中略)
ただし、これらは国内外から集う会議参加者に向けての花火である。
(中略)
ふだんは会議参加者のための花火ではあるが、京都市内唯一であるこの打ち上げ花火を京都の人にこそ見ていただこうと、1986年から「チャリティ納涼花火大会」が行われていた。そして1997年、地下鉄(国際会館駅)開通を記念して始まったのが「乾杯の夕べ」の花火というわけだ。
(後略)
公益財団法人 国立京都国際会館広報誌 ICC Kyoto Summer 2015号 より
https://www.icckyoto.or.jp/wp-content/uploads/2016/12/ICC_KYOTO_2015_summer.pdf (pdfファイル)

と見え、「乾杯の夕べ」の前身ともいえるのが「チャリティ納涼花火大会」であり、当初は「花火大会」と銘打っていたことが分かります。
「京都市内唯一である打ち上げ花火」としているのは1986年(昭和61年)当時の話でしょうか。
また、上記とは別に、国立京都国際会館とは関係なく、1961年(昭和36年)まで「宝池花火大会」も開催されていましたが、これはその翌年から嵐山に開催地が変更された、らしい。

追記しておきますと、翌年(2017年)から、陸上自衛隊の桂駐屯地で実施される「桂駐屯地 納涼夏祭り」でも花火が打ち上げられるようになりました。
これも「京都市内で打ち上げられる花火」といえるでしょう。

宝が池? 宝ヶ池?

宝が池で高く打ち上げられた花火を大文字山から遠望 京都市左京区 2016年7月
宝が池で高く打ち上げられた花火を大文字山から遠望する。京都市左京区。

この花火について、広域的に「宝が池の花火」とも見なされているようです。
ときどき話の種にしていますが、「宝が池」の助詞「が」の使い分けは様々で、地理院地図では「宝が池」の表記を採用しているものの、Googleマップさんでは「宝ヶ池」「宝ケ池」と、わざわざ2つの表記を併記しています。
また、付近の施設や広場の名称は「宝が池公園」、叡山電鉄さんの駅名は「宝ケ池」、京都バスさんの停留所名は「宝ヶ池」と、やはりまちまちで一定しません。
戦前の地形図では「寶池」と旧字体の表記で、かつてはこれが一般的だったようです。
戦後の地形図は長く「宝池」の表記でしたが、1990年代の地形図から「宝が池」と改められました。
仏教観の宝池(七宝の池)に由来するのか、他の意味合いがあるのかは知りません。

寶池をよめる
はちすさくたからの池にうく舟のまつおもかけにうかひぬるかな
『草庵和哥集』(草庵集)

たとえば、鎌倉時代後期~南北朝時代の頓阿が詠んだ「はちす咲くたからの池にうく舟のまづ面影に浮かびぬるかな」の釈教歌に見える「宝池」は極楽浄土にある七宝の池を指します。
浄弁と慶運の親子、それに兼好(兼好法師、卜部兼好、吉田兼好)とともに、頓阿は二条派の和歌四天王(二条為世門下の和歌四天王)に数えられた歌僧。
「はちす」は蓮華。
そういえば、私が幼い頃は宝が池にハスが広がっていた気がしますが、今はどうでしょうね。

千日詣りの愛宕山を大文字山から望む

千日詣りの夜、愛宕山と京都の夜景を大文字山から望む 2016年7月31日
千日詣りの夜、愛宕山と京都の夜景を大文字山から望む。2016年7月31日撮影。

手前に吉田山、その後方に京都御苑、さらに遠方に雙ヶ岡や嵐山方面の夜景を撮影しています。
遠くには愛宕山が聳えていますが、暗くて分かりにくいでしょうか。
肉眼での確認は困難でしたが、よく目を凝らして写真を見てみると、清滝からの表参道や山上付近が明るく光っていることが分かります。
千日詣りの夜に愛宕山が他の山からどう見えるかの参考に。

夜の愛宕神社さんや、あるいは神職さんの「通勤」事情について、昔、夕暮れ時の大文字山でお会いした嵯峨在住の方から興味深いお話を伺いました。
その方は愛宕の熱心な信者さんで、内部事情にとてもお詳しい年配の女性でした。
古い話ですので、今は状況も変化しているかもしれません。

追記

京都市内の花火

桂駐屯地の花火

この記事の公開翌年の2017年(平成29年)8月9日、京都市西京区の桂駐屯地で開催される「桂駐屯地 納涼夏祭り」でも花火が打ち上げられました。
2016年の納涼夏祭りでは花火がプログラムになかったので、おそらく2017年からだと思われます。
もし、2016年以前に花火が打ち上げられていた、見たことがあるよ、という方がいらっしゃったらコメント欄でご教示いただければ幸いです。
2017年~2019年、2022年~2023年は納涼夏祭りで花火が打ち上げられたことを確認(2020年~2021年は開催中止、2022年は一般開放中止で花火のみ)。

京都芸術花火

2018年(平成30年)5月30日、京都市伏見区淀の京都競馬場で「京都芸術花火」が開催されました。
元々、京都競馬場では2005年(平成17年)まで「よどサマーカーニバル」の花火が打ち上げられていましたので、当地では久々の復活と言えるでしょう。
もちろん、淀で打ち上げられる花火も大文字山から問題なく見通せます。
これも同様の紹介例が見受けられますが、国立京都国際会館や桂駐屯地で花火が上がりますので、淀の花火が「京都市内で唯一の打ち上げ花火」ではありません。

追記。
2019年(令和元年)は5月29日に淀で第2回となる「京都芸術花火」が開催されます。
昔は上賀茂や嵐山、中書島でも花火が打ち上げられていたそうです。
どちらに限らず、防火や警備などの観点から、年々、花火大会の開催は難しくなっていますが、長く続けば良いですね。

これは過去の記事でも軽く触れていますが、かつて、鴨川の河川敷で新聞社主催の「大文字花火大会」や、また別の新聞社主催で花火大会が開催されました。
1954年(昭和29年)8月16日の23時前、前者の花火大会で打ち上げられた落下傘型花火の残り火が、幕末における「小御所会議」の舞台として知られる京都御苑内の小御所に落下し出火(→「京都市消防局:昭和29年8月16日 上京区京都御所御苑内小御所炎上」)。
日付で分かりますが、「京都五山送り火」の夜ですね。
この事件が発生した後、いわゆる洛中に近いと見なせるエリアでは花火大会が開催されていないとされますが、それ以降も鴨川沿いの某旅館さんで花火を打ち上げていた、らしい、という話もあり、はっきりしません。
また、1994年(平成6年)の平安建都1200年記念事業として、京都のどこかで花火が打ち上げられた、らしい(→担当なさった花火会社さんの実績ページ に記載あり)。
国立京都国際会館で行われた記念式典の日に合わせて打ち上げた?
リンク先を拝見するかぎり、1998年(平成10年)に醍醐寺さんで開催された「JALステージスペシャル音舞台 第11回 醍醐寺音舞台」で花火を打ち上げたようですね。
これはまったく知らなかった(他の音舞台で花火は?)。
追記終わり。

追記。
2020年(令和2年)の「京都芸術花火」は中止。
2021年(令和3年)と2022年(令和4年)も開催されず。2023年(令和5年)はアナウンスなし。
追記終わり。

追記。
2024年(令和6年)6月26日に5年ぶりとなる「京都芸術花火」が開催されます。
追記終わり。

嵐山の花火

2020年以降、小規模ながら嵐山でも花火が打ち上げられています(嵐山疫病退散花火や嵐山宿花火、嵐山冬花火、嵐山秋花火)。
報道によると、嵐山で花火が打ち上げられるのは40数年ぶり。
嵐山では宝池花火大会の後継とされる「嵐山花火大会」が1974年(昭和49年)頃まで開催されていたようです。

大文字が「夜間登山禁止」に

火床の上部に、

傷害事故等が多発しています。
特に夜間の登山を禁止します。
大文字保存会

とする立て看板が設置されました。
五山送り火を模したのでしょう、2020年8月8日の夜、何者かにより「大」の字跡が無断でライトアップされる事件が発生し、その後、夜間の登山が禁止されたようですが、より強く明示されるようになりました。
当サイトでは大文字山をナイトハイクする記事を多く公開していますので、責任の一端のようなものがあると考えており、周知に協力いたします。
どの記事に追記しようか迷いましたが、他の記事と比較して、ややアクセス数が多めなこの記事と、あといくつかの記事を選んで追記しておきます。
現状では上記の警告に留まるようですが、今後、どうなるか分かりません。

大文字山(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「大文字山」周辺の地図を表示
「大文字山(ダイモンジヤマ)(だいもんじやま)」
標高465.3m(三等三角点「鹿ケ谷」)
京都府京都市左京区(山体は山科区に跨る)

ABOUTこの記事をかいた人

Maro@きょうのまなざし

京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!