8月16日の「五山送り火」(京都五山の送り火)も近い、新祝日の「山の日」(2016年8月11日)に、いわゆる「東山三十六峰」の瓜生山や茶山を登山しました。
「山の日」の日付にちなみ、見晴らしの良い瓜生山の展望地から約81.1km先に所在する和泉山脈の神野山を撮影した話は上の記事に。
今回の記事は、その続きのようなものです。
本記事において、初稿時に「京都造形芸術大学」としていた箇所については、改称前のまま残しておきます。
あしからずご了承ください。
この日は神野山を遠望するだけではなく、もう1つ別の目的もあって瓜生山を訪れました。
北白川の京都造形芸術大学さんから茶山を経て登るほうが、その目的をたやすく果たせることは分かっていましたが、早朝だったことに加え、夏季休業期間の可能性もあり、さすがに造形大さんの階段は利用できそうにありません。
その北にあたる一乗寺の波切不動さんの付近から中山に取り付き、石川丈山墓を経て瓜生山を登るコースを選ぶことに。
余談ながら、私は小学生の頃に同級生と「お山の図書館」を上り、見晴らしの良い丘の上から京都を眺めたことがあります。
幼少期に登った大文字山と同様、この出来事が私の原風景として心に残っており、今に繋がっているのでしょう。
補足しておきますと、造形大さんや、その前身にあたる京都芸術短期大学さんの児童図書館を「お山の図書館」と呼んでいました。
石川丈山墓にお参り。詩仙堂~波切不動尊~中山~茶山・瓜生山ハイキングコース。
丈山ゆかりの詩仙堂さんの裏山(南東)にあたる「中山」に丈山の墓があります。
「中山」ではどこを指すのか分かりにくいこともあり、史料によっては「舞楽寺村の中山」や「舞楽寺中山」とされます。
丈山の墓を過ぎて崖の上の道を登ると、南から来た北白川山・茶山・京都造形芸術大学さんからのコースと合流します。
そのまま北へ山を登れば、京都一周トレイル白幽子巌居蹟を経て瓜生山を登頂するか、トレイルコースを外れ、岩場の展望地を経て瓜生山を登頂できますが、ここは一度、南の茶山方面へ山を下ります。
少し山を下ると、「五山送り火」の山のうち、「舟形」と「妙」の字跡が木々の合間に見える地点があります。
現在、「東山三十六峰」茶山の山頂と見なされている地点よりは北にあたりますが、おおむね茶山と呼んでも差し支えない山域でしょうか。
西賀茂や松ケ崎方面が見えるよう、故意に山を開いていますので、その目的は明らかと言えますが、惜しいかな「妙」の右(東)に位置する「法」の字跡は木の枝で遮られて見えにくく。
さらに少し山を下ると、「茶山」の由来を解説した看板が立っています。
この看板は昨年になって新たに設置されたものですが、「茶山」の旧称を「清延山」とする内容には疑問が残るところです。
現存する史料から判断するかぎり、茶山の旧称は「清延山」ではなく「情延山」が正しいと考えられますが、「清延山」とする論拠は明示されません。
また、この看板は三十六峰ハイカーが「茶山の山頂」と見なしている地点ではなく、ハイキングコースの上、標高約190m地点に設置されています。
もっとも、本来、茶山(情延山)は特定のピークを指す呼称ではなく、北白川の扇状丘陵や、山麓にあったとされる茶屋四郎次郎の別荘を指す呼称ですので、山頂については、どこが正しいというものではありません。
そのあたりの話は上の記事に詳しく。夕景などと合わせて紹介しています。
看板の設置地点から少し南に下がれば、京都造形芸術大学さん方面や、茶山山頂への分岐があります。
造形大さん側へ山を下る道中、「五山送り火」の「妙法」(など)が見える地点があり、そこで「法」を撮影しておけば今後の展開が楽だったのですが、そこまで下って、さらに登り返すのが面倒だったこともあり、この看板の地点で引き返すことに。
今回の記事の冒頭で「造形大さんから登るほうが目的をたやすく果たせる」と書いた理由はこれです。
さらに申し上げれば、造形大さんの展望台から、「五山送り火」の五山六字のうち、四山五字や京都の街並みを一望できます(が、本記事の趣旨から外れます)。
手前に所在する山に遮られるため、造形大さんの展望台からは「鳥居形」のみ見えませんが、高度が上がる瓜生山の山上からであれば見通せます。
先ほどの丈山墓からのコースとの合流地点まで戻り、さらに京都一周トレイルコースから外れ、岩場の展望地へ。
瓜生山としては険しい道のりですが、滑りやすい雨上がりや夜間でもないかぎりは問題ないでしょう。
主な山、建築物 | 距離 | 標高 (地上高) | 山頂所在地 |
---|---|---|---|
あべのハルカス | 50.8km | (300m) | 大阪府大阪市阿倍野区 |
鳩ヶ峰 | 20.0km | 142.4m | 京都府八幡市 |
天王山 | 18.9km | 270m | 京都府乙訓郡大山崎町 |
ポンポン山 (加茂勢山) | 19.8km | 678.8m | 京都府京都市西京区 大阪府高槻市 |
小塩山 | 17.4km | 642m | 京都府京都市西京区 |
京都タワー | 6.8km | (131m) | 京都府京都市下京区 |
平安神宮さんの大鳥居や京都タワー、遠くに大阪の超高層ビルまで見通せる好展望地で、この景色を眺めるためだけに瓜生山を訪れる価値があります。
とくに示していませんが、右に見える緑地は京都御苑で、その後方が二条城。
眼下の京都盆地に対する見晴らしも良いですが、西向きは上の写真で見える範囲が限界で、京都西山の小塩山より北、つまり嵐山の山々や愛宕山などは見えません。
少し身を乗り出せば松尾山の周辺は見えなくもなさそうですが、ここは大きな白川石の上の崖ですので、落ちたらひとたまりもありません。
ここからは「五山」のうち、目の前に見える大文字山を撮影するに留めておきます。
京都五山送り火「大文字」の火床を瓜生山の展望地から眼前に望む。
「五山送り火」の山のうち、浄土寺の如意ヶ嶽、いわゆる「大文字」です。
北から眺めているため、「大」の字には見えませんが、その火床や弘法大師堂は確認できます。
もはやここまでくればお分かりだと思いますが、この日、私が瓜生山を訪れた「もう1つの目的」とは、瓜生山周辺の山の上から「五山送り火」の字跡を望むことにありました。
計算上、瓜生山から五山六字が全て見えることは分かっていますが、その検証と、証拠となる写真の撮影を。
この展望地からは小塩山より緯度が北にあたる「鳥居形」などは見えません。
展望地を離れ、少し北に山を登ると木の枝越しに愛宕山が見える地点があり、過去に夕日を撮影しています。
視界は狭いものの、そこからであれば「左大文字」などが見えるでしょう。
瓜生山から愛宕山の向こうに沈む夕日を撮影した話は上の記事に。
京都五山送り火「左大文字」の字跡と愛宕山を瓜生山から望む。
「五山送り火」の山のうち、大北山の大文字山、いわゆる「左大文字」です。
容易に発見できる愛宕山の下に「左大文字」が見え、そこから少し視点を右に動かせば「舟形」が、逆に左に動かせば「鳥居形」が見えます。
ただし、この地点は狭く、同時に「左大文字」を見通せるのはせいぜい1~2人のみです。
京都五山送り火「鳥居形」の字跡と丹波亀岡の半国山を瓜生山から遠望する。
「五山送り火」の山のうち、嵯峨鳥居本の曼荼羅山(仙翁寺山)、いわゆる「鳥居形」です。
「鳥居形」は小さいので、雪が積もった冬の日でないと場所が分かりにくいかもしれません。
日陰に入ってしまう夕暮れ時に「鳥居形」の字跡(火床)を把握するのは困難です。
また、手前の山(鳴滝・広沢池周辺の山)の陰となるため、字跡の全ては見えず、「鳥居」の右下部が微妙に欠けています。
先ほども申し上げましたが、造形大さんの展望台からは「鳥居形」のみ見えないため、当地は貴重とも言えます。
「鳥居形」の後方には北摂能勢の剣尾山が聳えていますが、残念ながら木の枝で遮られています。
その右の「丹波富士」半国山は夏場とは思えないほど綺麗に見えています。
これは撮影地点の立ち位置の問題ですので、少し場所を移せば剣尾山や横尾山を見通せるでしょう。
写真の右下には船岡山と、山上の建勲神社さんが写っていますので、興味がある方は探してみてください。
付近の山であれば、大文字山から「鳥居形」を綺麗に見通せます。
京都五山送り火「舟形」(船山)「妙」(松ヶ崎西山)を瓜生山から望む。
「五山送り火」の山のうち、西賀茂の船山、いわゆる「舟形」が左に見えています。
茶山同様、ここでも「法」が見えません。
実のところ、「法」の字は瓜生山を下山し、修学院や松ケ崎、あるいは高野界隈であれば平地から見える地点が増えますが、瓜生山の山上からだと茂った樹木に遮られやすいようです。
あくまでも今回は「瓜生山の上」から「五山送り火」の字跡が全て見えるかどうか、の話ですので、山中から見える地点を検討します。
愛宕山が見える地点を離れ、瓜生山の山頂へ向けて登ります。
道中、ところどころで比叡山の姿が見えますので、そちらも撮影しておきましょう。
「東山三十六峰」瓜生山から比叡山(四明岳、大比叡)を眼前に望む。
双耳峰のうち、左が四明岳で、右が大比叡です。
四明岳の山上にガーデンミュージアム比叡さんの展望閣が見えていますが、上の写真では分かりにくいでしょうか。
瓜生山は比叡山へ至るハイキングコースの道中にあたりますが、こうして見るとなかなか遠く感じます。
山頂の手前、道標「東山59-1」地点で京都一周トレイルコースと再合流します。
トレイル道標「東山59-2」から狸谷山不動院さんへ下れますが、ここからは下山せず、一度、瓜生山を登頂します。
道標の付近には不動明王の使者である三十六童子の「第三十二番 みょうくうぞう童子」(妙空蔵童子)がお祀りされていますが、狸谷山不動院さんから登る場合は三十六童子めぐりをしながら奥之院へお参りします。
瓜生山の山頂。狸谷山不動院奥之院「幸龍大権現」と「元・勝軍地蔵石室」。
かつて、勝軍地蔵さんが最初にお祀りされていた山で、今は狸谷山不動院さんの奥之院がお祀りされています。
そのため、「勝軍山」や「元勝軍地蔵山」とも呼ばれますが、古くは山域の総称として「白川山」と呼ばれていました。
勝軍地蔵さんは江戸時代に北白川山の山上に移され、近年になり茶山の山麓に移されました。
京都一周トレイルを比叡山方面に取り、狸谷山不動院さんへの「近道」コースで岐れます。
分岐をわずかに下ったあたりから、最後となる「五山」の姿を確認できました。
五山「妙」を狸谷山不動院・瓜生山・比叡山の分岐付近から望む。京都一周トレイル。
「五山送り火」の山のうち、松ヶ崎の西山、いわゆる「妙」が左に見えています。
「妙法」は二字で一山の扱いを受けています。
上の写真では分かりにくいですが、ようやく「妙法」が見える地点にたどりつきました。
新祝日「山の日」に京都五山送り火「法」の字跡(と標高811mの岩茸山)を望む。
「五山送り火」の山のうち、松ヶ崎の東山、いわゆる「法」です。
今まで見えそうで見えにくかった「法」も明確に望むことができました。
これで、「瓜生山と見なせる山の上から五山送り火の五山六字を全て撮影した」と言えるでしょう。
ただし、(山上に限定すると、)同じ地点から動かずに全部の字を見ることはできません。
上の写真の右上隅、樹木越しにうっすらと高い山の姿が見えていますが、これが京都北山でも桟敷ヶ岳の南に連なる岩茸山です。
「山の日」の日付(8月11日)と同じ数字の並びとなる標高811mの山で、この日にちなみ、もう少し明確に分かる形で撮影したいと考えていましたが、なかなか良い適地がありません。
このまま狸谷山不動院さんへ下山します。
狸谷山不動院さんの本堂の奥、瓜生山への登山口にあたります。
私が下山に利用した「元勝軍地蔵尊道」を逆に登っていけば、瓜生山山頂でお祀りされる奥之院にお参りできますが、山道は険しく、なんの備えも心得もない方では困難でしょう。
この日も軽い気持ちで足を踏み入れた軽装の方が、すぐに諦めて引き返していらっしゃいました。
もちろん、登山としてはとくに難しい山ではありません。
しかしながら、暑い盛夏の折り、手ぶらで入山するのは辞めておくほうが無難です。
五山「舟形」を狸谷山不動院さんの本堂越しに望む。京都市左京区一乗寺。
湿度が上がり、写真に写る景色もそろそろ霞がかってきましたね。
狸谷さんが誇る本堂越しに「舟形」が見えます。
「山の日」に多くの山を見つめましたが、とくにこの「舟形」の山を多く眺めた気がします。
名残惜しいですが、いよいよ瓜生山や周辺峰ともお別れます。
登り始めは朝も早く、夏とはいえ涼しく快適に低山を歩けましたが、すでに8時を過ぎ気温は急上昇。
セミの鳴き声も山中に響き渡り、噴き出る汗と共に暑さを増幅させます。
五山「左大文字」と愛宕山を狸谷山不動院さんの駐車場(祈祷殿)から望む。
撮影地点から愛宕山(京都市右京区)まで15.2km。
下の駐車場にあたる祈祷殿からも、「京都五山送り火」の山のうち「左大文字」「舟形」「妙法」が見えます。
ただし、「妙」の字の形はほぼ分かりません。
さらに下の八大神社さんの前からも「舟形」を見通せます。
五山「法」(松ヶ崎東山)と岩屋山を狸谷山不動院さんの駐車場(祈祷殿)から望む。
撮影地点から岩屋山(京都市北区)まで13.9km。
松ヶ崎東山の山頂付近のアンテナや、遠くの岩屋山も明瞭に写っていますね。
このように、狸谷山不動院さんの駐車場からも「五山送り火」の山々が見えますが、駐車場を利用できるのは9時~16時までです。
他の時間帯はチェーンがかかっていますのでご注意を。
公式サイトでは拝観時間も9時~16時となっていますが、これは自家用車で訪れる場合の話であって、実際には早朝でも参拝できます。
結論として、瓜生山からは「五山送り火」全部の字跡が見えます。
五山六字全部が見える場所は意外に少なく、京都タワーの展望室であったり、京都駅の空中径路であったり、あるいは某ホテルさんであったり、いずれも「五山送り火」の当夜は事前の予約や観賞チケットが必要です。
建築物の上ではなく、地表に足を付けた地点となるとなおさら限られており、瓜生山も同所から動かずに全ての字を見通せるわけではありません。
将軍塚の展望台(東山山頂公園ではなく、青龍殿のある青蓮院門跡将軍塚大日堂のほう)であれば全山が見えますが、当日は山上に対するアクセスが規制されます。
また、「大文字」も細く赤い炎が見えるだけで、「大」の字には見えません。
随分昔の記事でも申し上げたように、計算上、五山六字を同時に全て見通せる最遠望の地は久世郡久御山町のあたりですが、建造物に視線を遮られるため、地に足を付けた状態では見えません。
追記しておきますと、実は五山六字の全てが見える山が他にも……。
この年の送り火の当夜、見えることじたいは確認しましたが、雨天で撮影する気が起きず。
その話はまた別に機会があれば。
関連記事 瓜生山・茶山・狸谷山ハイキング
すべて同日の山行記録です。併せてご覧ください。
- 京都の瓜生山から神野山と大阪城を遠望 山の日 石川丈山墓
- 瓜生山(茶山・狸谷山)から「京都五山送り火」全山が見える
瓜生山(地理院 標準地図)
「瓜生山(ウリュウヤマ、ウリュウザン)(うりゅうやま、うりゅうざん)」標高301m
京都府京都市左京区
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