宇治川花火大会を大文字山から遠望 京都府の大文字 塔字山

2013年(平成25年)8月9日の話。
「第53回 宇治川花火大会」開催当日の京都、今年初めて気温37℃超えを記録し、15時過ぎには光化学スモッグ注意報が発令されるという劣悪な環境。
視程の低下も著しく、わざわざ山を登る気力も失せかけていましたが、準備も済ませていたため、けっきょく、花火大会に合わせて大文字山をナイトハイキング。

大文字山から宇治川花火大会を遠望撮影

大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その1
大文字山から宇治川花火大会の打ち上げ花火を望む。
撮影地点である京都市左京区の大文字山から花火の打ち上げ地点まで約14km。

日中から引き続き、ひどくもやもやした空模様。
夜空には星も見えず、山の上から望む街明かりも霞んでぼやけていましたが、次々と打ち上げられる花火は肉眼でもはっきりと見えていました。
もちろん、間近で見上げるような迫力はなく、遠く離れた大文字山から花火を眺めることができた、というだけの話です。
また、遠くが見えにくい夜は「赤い花火」の色しか遠くまで届かず、色合いも華やかさに欠けます。

宇治川花火大会ギャラリー その1

大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その2 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その3
大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その4 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その5
大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その6 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その7

上のギャラリーは撮影時の時系列順に並んでいます。
記事冒頭に掲載している写真は、上のギャラリーでは4枚目と5枚目の間に撮影したものです。

京都府下の「大文字」や送り火の話

今年も「五山送り火」の日が近付いてきました。
いわゆる「大文字」は京都府下に5ヶ所あることをご存じでしょうか。
京都市内に所在する左右の大文字山(大北山の大文字、如意ヶ嶽の大文字)はとくに有名ですが、丹後は京丹後市(かつての熊野郡久美浜町)の兜山(かぶと山)、丹波は福知山市の姫髪山、そして、山城は綴喜郡井手町の大峰(万灯呂山)においても「大」の字跡が描かれます。
このうち、丹後の大文字のみ、8月16日の夜ではなく、9日の夜に電飾で点されます。
そう、今年の宇治川花火大会の開催日と同日ですね。

宇治川花火大会ギャラリー その2

大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その8 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その9
大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その10 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その11
大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その12 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その13

過去、何年か、この8月9日は「千日会観光祭」を楽しむため、京丹後市を訪れていました。
日中は久美浜周辺を観光し、夜には「丹後の大文字」かぶと山の大文字点火や、花火の打ち上げ、それに、久美浜湾に浮かぶ灯籠流しを見物していましたが、今年は体調も今ひとつ、それに、あまりにも暑かったこともあり、そちらは見送ることに。

宇治川花火大会ギャラリー その3

大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その14 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その15
大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その16 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その17
大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その18 大文字山から宇治川花火大会を望む 2013年 その19

昨年まで、宇治川花火大会は10日に開催されていたため、千日会観光祭とは日程が重ならなかったように記憶しているのですが……。

以上、2013年8月9日の話。

追記

最後の宇治川花火大会

2014年(平成26年)8月10日、追記。
11日に開催が予定されていた「第54回 宇治川花火大会」は中止が決まりました。

宇治川花火大会 公式ホームページ
http://www.ujihanabi.jp/ (リンク切れ)

2017年(平成29年)12月、追記。
宇治川花火大会は2014年から4年続けて開催が見送られていましたが、来年以降も開催されない見込みとなりました。
結果的に、この年、2013年に大文字山の上から撮影した写真が、公式な「宇治川花火」としては最後の記録となりそうです。
撮影しておいて良かったといえるでしょう。長年、お疲れ様でした。

宇治川花火、半世紀の歴史に幕 京都、安全対策理由に : 京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20171207000194 (リンク切れ)

ただし、2014年以降も、私的な試みとして何度か宇治川近辺で花火が打ち上げられています。

北桑田郡神吉村の塔字山(南丹市八木町神吉の塔字山)

これは余談ですが、かつて、京都府北桑田郡神吉村字搭字山(現在の南丹市八木町神吉)の山でも字跡を描いて火を灯していたと知りました。
厳密には字ではなく、舟形や鳥居形と同様に、塔形(多宝塔の形)を描いたものらしい。

神吉村
高塚山ハ本村ノ西ニアリ古來山腹ニ塔ノ形ヲ劃シ毎年七月二十四日夜之ニ點火ス其狀恰モ京都ノ大文字ニ類ス故ニ山ヲ塔字山ト云フ今ハ村ニ慶事アル時ニ方リ點火スルノミ(創立年代由緒等未詳ナラス)
『京都府北桑田郡誌』

1904年(明治37年)の『京都府北桑田郡誌』には上のように見えます。
附図では紅葉峠と龍王山(現在の龍王ヶ岳)の間に「タカツカ山」が描かれています。

神吉村
高塚山
本村の西部山脈中にあるものにて、古來山腹に多寶塔の形を劃し、毎年七月二十四日(俗にウラボンといふ)の夜こゝに點火す。その狀宛も京都如意嶽の大文字に似たり。故にこの山を一に塔字山といふ。今は本村に慶事ある時に限りこの塔形に點火す。寛政八年七月に點火の法を改められし舊記存すれば、今より百二十餘年前旣にこの事ありしは明なる事實なり。
『京都府北桑田郡誌』

後年の1923年(大正12年)版でもほぼ同じ内容ですが、少し付け加えています。
「其狀恰モ~」「その狀宛も~」は、「その状、あたかも~」。
大文字山ならぬ「塔字山」、風習としては完全に廃れたようですが、火床の痕跡のようなものは残っているのでしょうか。
かつて、旧暦の7月24日に点火していたものが、明治時代の後期頃には村の「慶事」に合わせて点火するようになったという変遷も興味深いところです。
7月24日の盂蘭盆は、いわゆる地蔵盆ですので、それも京都市内における五山送り火とは性質が異なります(ので、いわゆる「送り火」ではありません)。
神吉は愛宕山や地蔵山がきわめて近い地域(北西麓)ですから、(愛宕山の)勝軍地蔵の縁日を選ぶのでしょう。
慶事と化すまでは、他地域でも見られる、たとえば松上げ(上げ松)など、愛宕神社に対する献火行事の一種だったのかもしれませんね。

これについては、1923年版の『京都府北桑田郡誌』の「地理」に、

(前略)
 鶴ヶ岡村は郡の北端なれば遺習甚だ多くこれらの祭事の外には、八月二十四日に裏盆と稱し「上げ松」の遊を行ふ、七八間の高さある杉丸太の尖頭に苧殼にて編みたる籠をつけ、杉葉を充てゝこれを立て、夜に入れば下方より松明をほりあげてこれに點火し、鐘笛、太皷を以て之を囃し火神愛宕山に敬意を表す。蓋し本郡人の愛宕崇拜は伊勢大廟の崇敬と共に古來著しき習慣を有し、郡内各村日を定めて伊勢講愛宕講を行はざるはなく、山ノ口講と共に敬神の二大年行事なるが、崇佛の行事としては纔に觀音講の一般に行はるゝがあるのみ。鶴ヶ岡村の上ケ松に比すべきものに、他の村々に於て稻の虫送りあり、上ゲ松を行ふ頃松明を點じて稻田に出で、之を立て不夜城の美を現ずることあり、神吉村に於ては京都東山の大文字に擬して山に塔形の點火を爲すことあり、何れも火を聖靈に献ずるの儀を兼ねたりと見るべし。
『京都府北桑田郡誌』

とも見えます。
北桑田郡鶴ヶ岡村(現在の南丹市美山町鶴ケ岡)の献火行事については、

鶴ヶ岡村
人情風俗
獻燈
愛宕神社ニ獻燈ノ爲陰暦七月廿四日村民齋戒沐浴シテ薄暮ヨリ各字ニ於テ炬火ヲ投上ス其法頗奇ナリ
(後略)
『京都府北桑田郡誌』

1904年版の『京都府北桑田郡誌』では上のように見え、

鶴ヶ岡村
土俗傳説
上げまつ
本村川合、殿、田土、庄田の四區に於ては、每年八月二十四日各々近傍の川原に至りて炬火を焚く。これを上げ松と名づく。こは豫め長十問内外の柱上に竹にて製したる茶筌形の錑を造り中に藁鉋屑などを滿たし、その中央に高さ約二間の所に御幣の束を結び付く。さてその日薄暮の頃より松明を持ちたる面々はこゝに集まり來り、競うて松明を打ち上げ柱上の錑の中に入れんとす。やがて松明その中に入れば煙焰高く揚がりて一時に之を燒き盡す。この折を待ちて柱を倒し御幣を拔取りて捧持し、聲を揃へて祇園囃子を歌ひつゝ、其の年當番の家に入りて神酒を飮むなり。こは愛宕神社に獻燈を意味せるなりといふ。
『京都府北桑田郡誌』

1923年版の『京都府北桑田郡誌』でも同様の描写が見えます。

花火と思い出話

2021年(令和3年)、追記。
本記事を公開してから、もう何年も経ちました。
初稿公開時はあえて触れずにおきましたが、実は、この夜、大文字山の山頂(三角点)には他の方もいらっしゃり、その方と一緒に遠くで上がる花火を観賞しました。
別れ際、その方から、現地でメモ用紙にお書きになられた手紙を恥ずかしそうに手渡され、(何語で)どう返事したものか迷ったあげく、無言で受け取り、そのまま逃げ去ってしまいました。
さぞ不愛想でつまらない人間だと思われたことでしょう。

帰宅後、確認してみると、お手紙には英語で、あの見えていた花火はどこで打ち上げられたものかといった質問や、お礼めいたこと、その方のお名前や連絡先、そして、ある種のメッセージが記されていました。
インターネット上でその方のお名前を検索してみると、どうやら東欧の某国の大学院に所属なさる才女さんらしいと分かりました。
観光で京都にいらして夜の大文字山をお登りになるとも思えず、おそらく日本には留学でいらっしゃったのでしょう。
そこで、あの見えていた花火は京都の宇治川で打ち上げられたものであることや、私こそとても楽しい時間を過ごすことができましたといったお礼を返信差し上げました。
その方とはそれっきりで、おそらくはもうお会いする機会もないでしょうが、いただいたお手紙は今でも大切にしまっています。

大文字が「夜間登山禁止」に

火床の上部に、

傷害事故等が多発しています。
特に夜間の登山を禁止します。
大文字保存会

とする立て看板が設置されました。
五山送り火を模したのでしょう、2020年(令和2年)8月8日の夜、何者かにより「大」の字跡が無断でライトアップされる事件が発生し、その後、夜間の登山が禁止されたようですが、より強く明示されるようになりました。
当サイトでは大文字山をナイトハイクする記事を多く公開していますので、責任の一端のようなものがあると考えており、周知に協力いたします。
どの記事に追記しようか迷いましたが、他の記事と比較して、ややアクセス数が多めなこの記事と、あといくつかの記事を選んで追記しておきます。
現状では上記の警告に留まるようですが、今後、どうなるか分かりません。

大文字山(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「大文字山」周辺の地図を表示
「大文字山(ダイモンジヤマ)(だいもんじやま)」
465.4m(→465.3m)(三等三角点「鹿ケ谷」)
京都府京都市左京区(山体は山科区に跨る)

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2 件のコメント

  • Maroさん、こんにちは。毎日、暑い日が続いていますが、体調の方はいかがでしょうか。このお盆期間中、俎石山まで登って、遠望を楽しもうと考えていましたが、(紀泉アルプスを専門に山歩きをしておられるベテランの方のブログ記事から) どうも今年は、例年以上に「マムシ」に多く遭遇しているらしいのです。で、危険回避のため、「山」には行かないことに決めました。まぁ、幸い?!というか、それにしても(遠望のための) 条件、悪いですよね。近所の高台からでも、遠くは、さっぱり見えません。マムシを気にする必要が薄れる「秋」「年末」に期待です。大文字山は、マムシ どうですか?! このお盆、大文字山からの眺めはどうですか。明日は、五山の送り火ですね。登山禁止ですね。

    • こんばんは。

      遠望、昨年は15日夕方から17日夕方にかけて好条件だったようですが、残念ながら今年のお盆はもやっとした空模様の日が続いています。
      自身の記録を見るかぎり、今年は13日夜から14日早朝にかけてのみ、この8月としてはまだましな条件だったように思いますが、それも日中はさっぱりです。
      日中は暑い日が続いていますが、強い風が吹く夜が多く、熱帯夜が少ないのが救いです。
      体調も少しずつ回復してきました。お気遣いありがとうございます。

      大文字山にはそのものずばり「まむし谷」と呼ばれる谷があったそうですが、私もフィールドワークによる聞き取りで年配の女性から教えていただいたのみで、他にその呼称を御存じの方とお会いしたことがありません。
      大文字山でも深い山域で、たしかに、マムシが出そうな谷ではあります。
      それとは別に、過去に別の谷のはずれで見かけたことがある、それも、あまり利用されないコースの真ん中で堂々と寝ているのを見ましたが、今年はまだ見ていません。山全体としては少ないと思います。
      びっくりすることに、昨年より大文字山ではツキノワグマ(熊)の目撃例が出ていますが、紀泉でクマさんが出ることはないでしょうから、その点では安心ですね。
      ただ、やはりマムシは心配です。ハイカーの皆さん何事もなければよいのですが。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    Maro@きょうのまなざし

    京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!