京都の瓜生山から神野山と大阪城を遠望 山の日 石川丈山墓

2016年(平成28年)、新たに制定・施行された祝日「山の日」。
8月11日という日付にちなみ、京都北山でも桟敷ヶ岳の南に連なる標高811mの岩茸山を登山しようかと考えていましたが、これは誰でも思いつきそうなので止めておきます。
なにか記念となる良いアイデアはないかと思案しながら、自身の過去の記事を見返してみたら、「東山三十六峰」瓜生山の展望地から81.1kmの距離に和泉山脈の神野山が所在することに気付きました。
夏場に京都の山から和歌山の山まで遠望するのは困難ですが、幸い、前夜の空気の澄み方から、今日は遠くの山並みまで綺麗に眺望できそうだと予想できます。
ちょうど瓜生山には別の用事もあり、早朝の涼しいうちにハイキングすることに。

波切不動尊

一乗寺の波切不動尊 瓜生山の西麓 2016年8月
瓜生山の西麓、一乗寺の波切不動尊。詩仙堂さんや金福寺さんの南東。

瓜生山・茶山の展望地から黄色にライトアップされた京都タワーを望む 2015年7月

黄色の京都タワーと夕日を瓜生山から望む 大阪の通天閣は……

2015.07.28

昨年の7月、波切不動さんの奥の谷筋を強引に詰めて瓜生山を登ろうとして苦戦しました。
今日は無難に石川丈山墓を経て茶山の上に出る一般的なハイキングコースを選びます。
波切不動さんの南の山道から中山に取り付きます。

石川丈山墓(舞楽寺中山)

石川丈山墓 舞楽寺中山の山頂 2016年8月
石川丈山墓。舞楽寺中山の山頂。国指定文化財(史跡)。

波切不動さんから瓜生山を登る道中、コース脇の小ピーク上に石川丈山の墓があります。
この小ピークや付近の山域を「中山」(舞楽寺中山)(舞楽寺村の中山)と呼びますが、瓜生山へ至る尾根の上にすぎず、独立した山という印象は受けません。
古くは山麓に延暦寺末院の舞楽寺(ぶがくじ)があり、舞楽寺村や舞楽寺天王社の名前が今に伝わります。

「石川丈山墓 いしかわじょうざんのはか」
詩仙堂ノ東南舞楽寺中山ノ山頂ニ在リ景勝ノ地ニシテ墓碑ノ石階敷石等現存セリ墓誌銘ハ野間三竹ノ撰スルトコロナリ石階ノ側ニ門人平岩仙桂ノ墓アリ丈山寛文十二年五月二十三日詩仙堂ニ於テ歿シコノ地ニ葬レリ(後略)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/202026

石川丈山墓については文化庁の文化遺産データベースに詳しく。
現在は樹木に囲まれていますが、「景勝ノ地」と見えることから、史跡に指定された1928年(昭和3年)当時は見晴らしが良かったのかもしれません。

石川丈山は江戸時代初期の文人で、一乗寺の詩仙堂で晩年を過ごしました。
いわゆる東山三十六峰の茶山は、古くは「情延山」を称しましたが、『京都府愛宕郡村志』の「白川村志」によると、この名付け親は石川丈山だとしています。
現在、京都造形芸術大学さん(→京都芸術大学に改称)が建つあたりに、江戸時代初期頃、豪商として知られる茶屋四郎次郎の別荘があったとされ、丈山が「情延山」と刻した椽額を茶屋四郎次郎の別荘に贈ったのが、「情延山」の始まりとのこと。
この「情延山」らしき額を、昔、茶山の禅法寺さんで拝見しましたが、今も残っているかどうかは分かりません(後世の復刻?)。

昨年、茶山の山中に由来を記した看板が新たに立てられましたが、なぜか旧称を「清延山」としています。
過去の記事でも解説していますが、江戸時代前期の『東北歴覧之記』や『雍州府志』にも見えるように、これは「情延山」が正しいと考えられ、1979年(昭和54年)の『京都市の地名』(平凡社・刊)でも「情延山(じょうえんざん)」の山名を採用しています。
私が知るかぎり、この山を指して「清延山」とする古い史料や地誌は見当たりません。
初代の「茶屋四郎次郎」中島四郎次郎清延の名前から由来する山名だと誤解なさっているのかもしれませんね。

瓜生山 元・勝軍地蔵石室 説明板 京都一周トレイル道標「東山59-3」

瓜生山(勝軍山)、茶山、北白川山の由来と歴史 東山三十六峰

2015.02.28

このあたりの話は、上の記事で詳しく解説しています。

丈山の墓を過ぎたあたりに、昨年、私が苦戦した波切不動さんの奥の谷筋からの道が付いています。
やはり、谷を最奥まで詰めるのではなく、このあたりで尾根に乗るのが正解だったようです。

崖上の道を登っていくと、北白川山・茶山・京都造形芸術大学さん側からのコースと合流します。
すぐには瓜生山の展望地や山頂を目指さず、先に述べた「別の用事」を片付けるべく、少しばかり茶山側へ下り、再び登り返して瓜生山の中腹に位置する展望地へ。

京都市左京区 瓜生山の展望・眺望

和泉山脈東部を遠望

瓜生山から岩湧山や南葛城山など和泉山脈東部の山々、生駒山、将軍塚青龍殿を遠望
瓜生山から岩湧山や南葛城山など和泉山脈東部の山々、生駒山、将軍塚青龍殿を遠望する。

主な山距離標高山頂所在地備考
岩湧山77.2km897.1m大阪府河内長野市
南葛城山
(嵯峨谷ノ峰)
79.4km922m大阪府河内長野市
和歌山県橋本市
和泉山脈最高峰
標高の値は10mDEMによる
神野山81.1km869m大阪府河内長野市
(和歌山県伊都郡かつらぎ町)
生駒山41.5km642.0m奈良県生駒市
大阪府東大阪市
生駒山地最高峰
交野山29.2km341m大阪府交野市河内富士
眼鏡山
(清滝山)
36.2km361.2m大阪府四條畷市点名「目賀根」

期待どおり、今朝は夏としては遠くまで見えやすく、和泉山脈東部の山々は肉眼でも確認できました。
より遠くまで見通せるほどの条件ではありませんが、8月11日に81.1km先の山を望むという目的は果たせそうです。

東山三十六峰 瓜生山から和泉山脈西部、あべのハルカス、京都タワーを望む

茶山(情延山)や瓜生山ハイキング あべのハルカスを遠望

2015.02.25

この展望地については過去の記事に詳しく。
京都一周トレイルのメインコースからは外れていますが、主に京都盆地の東部から南部を広く見渡せる好展望地です。
瓜生山は比叡山への通過点だと考えるハイカーが多いようですが、この眺望を目当てとして訪れる価値はあるでしょう。

81.1km先の神野山を撮影

新祝日「山の日」(2016年8月11日)に瓜生山から81.1km先の神野山を遠望
新祝日「山の日」(2016年8月11日)に瓜生山から81.1km先の神野山を撮影する。

神野山は和歌山と大阪を分ける和泉山脈に属する山で、地形図ではこのあたり
紀伊と河内の国境尾根の上、燈明岳(東ノ燈明岳)の北、あるいは三国山の南東に位置しますが、標高点869mは大阪府河内長野市側に所在します。
ただし、山名の「神野(こうの)」は和歌山県伊都郡かつらぎ町側の地名に由来します。
神野集落には葛城修験と関わりが深い神野阿弥陀堂さんがあり、国の登録有形文化財に指定されていますが、山の向こう側ですので、京都側からは見えません。

京都市の瓜生山から河内長野市・かつらぎ町の神野山に対する見通し
京都市の瓜生山から河内長野市・伊都郡かつらぎ町の神野山に対する見通し。

神野山の標高869mは和泉山脈に属する主だった山の中では高い部類で、よく知られる和泉葛城山の標高858mを上回ります。
ですが、地理院地図に山名が表示されないことに加え、大阪側から見ると和歌山側の山と感じることもあり、どちらかと言えば知名度は低いようです。

…これで神野山の標高が811mであれば、なお良かったのでしょうが、さすがにそこまで揃えるのは難しく。

大阪方面の遠景とOBPビル群

瓜生山からOBPビル群、あべのハルカス、鳩ヶ峰、京都タワーを遠望 2016年8月
瓜生山からOBPビル群、あべのハルカス、鳩ヶ峰、京都タワーを遠望する。

主な山、建築物距離標高
(地上高)
山頂所在地備考
四石山93.0km384.4m大阪府泉南市
大阪府阪南市
和歌山県岩出市
あべのハルカス50.8km(300m)大阪府大阪市阿倍野区日本一高いビル
鳩ヶ峰20.0km142.4m京都府八幡市
京都タワー6.8km(131m)京都府京都市下京区

京都タワーと八幡の鳩ヶ峰(男山)、その遠方に大阪でも京橋・OBPビル街周辺の高層ビルが見えています。
かろうじて写真には写っていますが、四石山や、その西(写真では右)に連なる紀泉アルプスの山々は肉眼では場所が分かりにくく。

京都タワー展望室から大阪城、クリスタルタワーを遠望 2016年7月

京都タワー展望室から大阪城、あべのハルカスを遠望撮影

2016.07.13

少し前の京都タワー展望室の記事で、「TWIN21 OBPパナソニックタワー」とクリスタルタワーの間に大阪城の天守閣が見えるという話をしました。
瓜生山の展望地と京都タワー、大阪城はおおむね直線上に並んでいるため……、

大阪城と和歌山の雲山峰を遠望

京都東山三十六峰の瓜生山から大阪城、紀泉アルプスの雲山峰を遠望 2016年8月
京都東山三十六峰の瓜生山から大阪城、紀泉アルプスの雲山峰を遠望する。

主な山、建築物距離標高
(地上高)
山頂所在地備考
雲山峰96.8km489.9m和歌山県和歌山市紀泉アルプス最高峰
大阪城46.4km(55m)大阪府大阪市中央区

京都タワーの展望室からと同様、瓜生山の展望地からも「TWIN21 OBPパナソニックタワー」の右後方に大阪城の西半分を見通せます。
東山界隈で大阪城が見える地点は珍しく、OBPパナソニックタワーに遮られるため、大文字山の山頂(三角点)や火床からは見えません。
瓜生山から大阪城を撮影された先例がインターネット上で見付かりますが、自力で気付かれたのは凄いです。

ときどき話の種にしている高槻クリーンセンターの白い煙突が目立ちますね。
大阪城と異なり、この煙突は京都東山の多くの山上から見えます。
写真中央付近には、2003年(平成15年)に竣工した大山崎町のイオン関西NDC(物流センター)。
他にも、淀川に架かる橋など、さまざまな構造物や建築物が写っていますので、興味が湧いた方は探してみてください。

長くなってきたので記事を分けます。

五山「法」(松ヶ崎東山)と岩屋山を狸谷山不動院の駐車場(祈祷殿)から望む 2016年8月

瓜生山(茶山・狸谷山)から「京都五山送り火」全山が見える

2016.08.15

「別の用事」の話は上の記事に続きます。

関連記事 2016年8月11日 新祝日「山の日」ハイキング

瓜生山(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「瓜生山」周辺の地図を表示
「瓜生山(ウリュウヤマ、ウリュウザン)(うりゅうやま、うりゅうざん)」
標高301m
京都府京都市左京区

ABOUTこの記事をかいた人

Maro@きょうのまなざし

京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!