東山三十六峰 紫雲山からハルカスを遠望 真如堂の紅葉 祇園三女

今日、2015年(平成27年)11月10日の夕暮れ時の話。
少し時間が空いたため、紅葉狩りに洛東の紫雲山(しうんざん)を軽く山歩き。
山上に真如堂さんや黒谷さんが建つ小高い丘陵で、いわゆる「東山三十六峰」の一座と見なされていますが、その標高はせいぜい100m。
お寺さんをお参りするにあたり、すぐ北の吉田山と同様、殊さら「ハイキング」を強調するほどの高さや登りではありません。
私は京都の名所における紅葉にはさほど興味がありませんが、昔から真如堂さんの紅葉には惹かれるものがあり、長年、撮影を続けています。

真如堂(真正極楽寺) 三重塔と紅葉と夕日 2015年11月10日
夕暮れ時の真如堂さん(真正極楽寺)。三重塔と紅葉越しに望む夕日。

逆光で暗いため、紅葉が映えません。
緑色の葉も少し残していますが、三重塔の周辺の樹に限れば、そろそろ紅葉の盛りを迎えるでしょう。
お寺さん全体としては、まだこれからといった印象を受けます。

鈴聲山 真如堂の東側から紅葉する大文字山を望む 2015年11月
「鈴聲山」真如堂さんの東側から紅葉が進む大文字山を望む。

真如堂さんの東側から見た今日の大文字山の様子です。
雨上がりで遠くの低い空には湿気が残っていましたが、京都の上空はすっきり晴れていました。
くろ谷さんと真如堂さんは同じ山、つまり、紫雲山の山上に所在しますが、「紫雲山」はくろ谷さんの山号であり、真如堂さんの山号は「鈴聲山」です。

真如堂さんの三重塔から会津墓地を抜け、くろ谷さんの文殊塔へ。
この日は時間が遅かったので遠慮しましたが、会津墓地の近く、西雲院さんの墓地には、私が好む女性歌人、百合と町の親娘の墓もあります。
西雲院さんはくろ谷さんの塔頭で、俗に「紫雲石」と呼ばれます。

紅葉
山ひめのひとつこゝろに染めなすも木々に色わく四方のもみち葉
百合女
『佐百理葉巻』(佐遊李葉)

百合は江戸時代中期の女性歌人。
祇園の茶屋「松屋」の亭主である梶子の養女で、歌を詠む女店主と珍しがられた養母の跡を継ぎました。
東山を好み、「三十六峯外史」と号したことで知られる江戸時代後期の文人、頼山陽が、彼女の没後、『百合傳』(百合伝)でその生涯を世に広めることになります。

蘭の繪に
いつのまに誰かぬきすてし藤はかますそ野のはらに匂ふあきかせ
祇園町女
『白芙蓉』

町は百合の娘ですが、一般的に、池大雅の妻、玉瀾の名で通ります。
梶子、百合、町、いずれも才女として知られ、親子三代を総称して「祇園三女」と謳われました。
松屋の菩提所が西雲院さんで、母である百合とともに町(玉瀾)も紫雲山の山上で眠ります。
夫である池大雅と墓所が分かれた理由は現代に至るまで不明で、1916年(大正5年)の『美術叢書 第四編 池大雅』では、「いかなるわけのあつたものであるか、傳説は這般の消息に就て何等告ぐる處がない」(いかなるわけのあったものであるか、伝説は這般の消息についてなんら告げるところがない)としています。
「這般(しゃはん)の」は「これらの」の意。

上の歌は詞書に「蘭の絵に」と見えますが、町(玉瀾)は閨秀画家(女性画家)として知名度が高く、自身の歌や百合の歌を画賛とした絵も見受けられます。
実際に拝見したわけではありませんが、上の歌も自筆の蘭画に自賛した歌でしょう。

是貞のみこの家の歌合によめる
敏行朝臣
何人かきてぬぎかけし藤ばかま来る秋毎に野べを匂はす
『古今和歌集』

「いつのまに~」の歌じたいは、平安時代前期の歌人、藤原敏行による「なに人かきてぬぎかけし藤袴くる秋ごとに野べをにほはす」の派生歌だと考えられます。

「くろ谷」は金戒光明寺さんの通称ですが、比叡山の黒谷青龍寺さんに対し、新黒谷とも呼ばれていました。
くろ谷さんの文殊塔も三重塔で、紫雲山の山上には三重塔が2基も建っていることになります。
この文殊塔のあたりが紫雲山でも特に標高が高く、文殊塔の前の標高が約95m。
厳密には文殊塔の裏が紫雲山の最高標高で、「基盤地図情報5mメッシュ(標高)」によると標高100m。
大雑把に文殊塔が建つ地を山頂と見なしてもよいでしょう。

文殊塔の前は西向きに開けており、眼下にはくろ谷さんの山門が、京都盆地を越えた先には愛宕山の頂きを眺望できます。
腰を据えて夕景をスケッチしていらっしゃる方や、散歩がてらに夕日を撮影していらっしゃる方をお見掛けしました。
また、文殊塔から参道の階段を少し下った墓地の中段からは、八幡の鳩ヶ峰(男山)の向こう、遠く大阪の「あべのハルカス」まで見通せます。
場所柄、撮影に適しているとは言えませんが、参考程度に何枚か写真を。

紫雲山 くろ谷(金戒光明寺)から大阪の「あべのハルカス」を遠望 2015年11月
「紫雲山」くろ谷さん(金戒光明寺)から大阪の「あべのハルカス」を遠望する。

主な山、建築物距離標高
(地上高)
山頂所在地備考
あべのハルカス48.4km(300m)大阪府大阪市阿倍野区日本一高いビル
雲山峰94.4km489.9m和歌山県和歌山市紀泉アルプス最高峰

ハルカスさんだけではなく、上部のみとはいえOBPビル群も見えており、OBPキャッスルタワーの左遠方には雲山峰の山頂がわずかに写っています。
残念ながら、今夕は京都から見て大阪方面の空に雲が多く、山並みと雲の境目が分かりにくいでしょうか。
写真で「雲山峰」と示している以外、それより高く山のようにも見える影は全て雲です。
紀泉アルプスで最も高い雲山峰ですら山頂しか見えないことからお分かりいただけるように、他の和泉山脈西部の山々は撮影地点からほぼ見えません。
ですが、標高100m未満の地点から和歌山の雲山峰や大阪の超高層ビル「あべのハルカス」を撮影できる貴重な山です。

写真の左手前で目立っている赤白の塔はNTTコミュニケーションズ京都南ビルです。
位置関係が分かりやすいように、やや引いた構図の写真も。

東山三十六峰 紫雲山 くろ谷(金戒光明寺)から京都タワー、平安神宮大鳥居を望む
「東山三十六峰」紫雲山からの眺め。くろ谷さんから京都タワー、平安神宮さんの大鳥居を望む。

主な山、建築物距離標高
(地上高)
山頂所在地
鳩ヶ峰17.5km142.4m京都府八幡市
天王山16.6km270m京都府乙訓郡大山崎町
京都タワー4.4km(131m)京都府京都市下京区

京都タワーの後方には天王山が、右手前には市立美術館など岡崎公園の周辺や大型クレーンが見えています。
広角的な視野では「あべのハルカス」も曖昧な見え方に過ぎません。

紫雲山(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「紫雲山」周辺の地図を表示
「紫雲山(シウンザン)(しうんざん)」
標高約100m
京都府京都市左京区

「真正極楽寺」
京都府京都市左京区浄土寺真如町 周辺
「金戒光明寺」
京都府京都市左京区黒谷町 周辺

ABOUTこの記事をかいた人

Maro@きょうのまなざし

京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!