2016年(平成28年)4月末の話。
少しだけ時間が空いたため、京都市北区大宮釈迦谷に所在する釈迦谷山(しゃかだにやま)をハイキング。
鷹峯から京見峠(~前坂~杉阪)に至る府道31号西陣杉坂線(氷室道新道)の車道に接しており、車道から10分足らずで登頂できるため、今となっては登山の対象とはなりにくい山です。
府道31号でも釈迦谷山の南斜面にあたる区間は険しいヘアピンカーブ続きの狭隘道路として知られていましたが、2014年(平成26年)に新しく供用されたバイパスのおかげで通行が容易となりました。
その件(バイパスの件)については2015年(平成27年)1月1日、つまり元日の記事で取り上げています。
目次
釈迦谷山の最高地点はどこ?
地理愛好家や地図愛好家にとって、釈迦谷山は山頂域に三角点と標高点(独標)が同居する山としても知られています。
地形図において、2014年4月1日に三角点の測量成果(標高)が改定されるまで、釈迦谷山は三角点の値が291.2mで、標高点の値が291mであり、わずかに三角点の値が高く。
現地で確認しても、標高点の所在地と見なせる地点より、三角点の所在地のほうが高いように見え(個人的主観)、「三角点の所在地=釈迦谷山の最高標高地点=釈迦谷山の山頂」という図式が成り立っていました。
ところが、釈迦谷山の三角点の値が290.9mに改定されたため、標高点の値を下回ることに。
上は現行の地理院地図を表示していますが、三角点290.9mと標高点291mが「頂」付近に同居していることがお分かりでしょうか。
「山の最高標高地点」を山頂と定義するのであれば、釈迦谷山の山頂は三角点の所在地ではなく、これでは標高点の所在地となってしまいます。
はたして釈迦谷山の「山頂」はどこなのでしょうか。
きわめて細かな話ではありますが、この件は以前から気になっていたため、散歩がてら現地の状況を調査してきました。
※追記
本記事の初稿を公開した時点では、確かに釈迦谷山の山頂付近に三角点と標高点が「同居」しており、「山頂」の位置に逆転現象が生じていましたが、国土地理院さんが対応なさったようで、その後の修正で標高点が地形図から消され、三角点のみとなりました。
「謎」ともいえる状態は解消されましたが、少し寂しくもあります(笑
鷹峯から西陣杉坂線(釈迦谷工区)
この日は鷹峯の交差点を起点とします。
事前に登るコースを決めていたわけではありませんが、結果的に「鷹峯~氷室道新道~釈迦谷山~京見峠~釈迦谷(旧氷室道)~秋葉神社~釈迦谷口」と歩きました。
府道31号の車道は自転車で走り抜ける方が多く、ヒルクライム趣味の方にはよく知られているようです。
京都府道31号西陣杉坂線。新道(釈迦谷工区)を鷹峯から上ります。
新道は場所によっては見晴らしが良く、京都市内方面を見渡せます。
いわゆる「京見峠」は昔時ほどの展望が期待できないため、このあたりのほうが眺めが良いでしょう。
ただし、下の写真の撮影地点からは比叡山や大文字山が見えません。
京都タワーや鷲峰山を遠望
西陣杉坂線・釈迦谷山の展望。京都タワー、東山、音羽山、鷲峰山などを遠望する。
主な山、建築物 | 距離 | 標高 (地上高) | 山頂所在地 | 備考 |
---|---|---|---|---|
音羽山 | 14.6km | 593.1m | 京都府京都市山科区 (滋賀県大津市) | |
千頭岳 (東千頭岳) | 16.7km | 600m | 京都府京都市伏見区 滋賀県大津市 | |
空鉢峰 (鷲峰山) | 30.2km | 682m | 京都府相楽郡和束町 | |
大峰山 | 23.7km | 506.3m | 京都府綴喜郡宇治田原町 | 最高点は約510m |
清水山 | 9.1km | 242.2m | 京都府京都市東山区 | |
京都タワー | 8.4km | (131m) | 京都府京都市下京区 | |
船岡山 | 2.5km | 111.6m | 京都府京都市北区 |
晴天でしたが、いかにも春らしく霞んだ空で、遠くは見えにくく。
あまり多くは示していませんが、少し探せば将軍塚青龍殿や知恩院さん、京都御苑などは見付かるでしょう。
千頭岳の右には西千頭岳、醍醐山などが、宇治田原の大峰山の手前には伏見の稲荷山などが写っています。
釈迦谷山の花と植物
釈迦谷山の周辺ではモチツツジとヤマツツジが多く見られます。
モチツツジとヤマツツジの自然交雑種であるミヤコツツジを探しますが、なかなか見付かりません。
お花そのものだけではなく、上の写真のように、「ガク(萼)」を見ます(萼の長さが分かる写真を撮影しておきます)。
ピンク色で大きなお花を咲かせるモチツツジと、真っ赤で小さなお花を咲かせるヤマツツジの中間的な性質を持つのがミヤコツツジです。
個体差が大きいため、なかなか区別が難しい植物のひとつで、ただただ色が濃いモチツツジというわけではありません。
モチツツジのガクは長く、粘った毛が目立ちますが、ヤマツツジのガクはきわめて短いです。
私が過去に観察したミヤコツツジのガクはどちらかといえば短く、花柄の粘り気も弱かったため、ガクや花柄で判別するのが分かりやすいと考えています。
府道31号を離れ、地形図に見える北西からの破線路を利用するか、地形図には表示されませんが、南の尾根から強引に乗れば、すぐに釈迦谷山を登頂できます。
遠回りになるのを嫌がり、この日は南西側から古い踏み跡を利用して登りましたが、基本的には北西側から取り付くほうが無難でしょう。
釈迦谷山の山頂(三角点)
三角点が選定・設置された当初、1903年(明治36年)観測時の「点の記」に目を通してみると、「俗稱 ノノゲン山」と見え、どうやらは古くは「ノノゲン山」とも呼ばれていたようです。
大宮の地といえば、本阿弥光悦や石川丈山とも交友があったと伝わる医者、野間玄琢(のまげんたく)の名前が思い浮かびますが、「ののげん」と何か関係があるのでしょうか。
現地で確認するかぎり、今でも三角点が所在する地点のほうが、地形図で標高点が示される地点(現地は藪の中)より高いように感じます。
国土地理院が公開する「基盤地図情報(数値標高モデル)5mメッシュ」(5mDEM)でも、三角点が所在する地点の標高が290.8mで、標高点が所在する地点の標高が288.9mですので、これからも三角点の地点を釈迦谷山の山頂と見なしてよいのではないでしょうか。
標高点は基本基準点ではなく、長年、更新されていない場所が大半ですので、このような逆転現象が生じたのでしょう。
地形図では北西に延びる尾根から岐れ、北の釈迦谷の谷間へ下りる破線路も示されています。
やや険しいコースですが、秋葉神社さんの北西に下山できます(後述)。
この日は尾根を伝って再び府道31号に合流しました。
釈迦谷山の北西側の取付点。府道31号西陣杉坂線「氷室16」の電柱の脇から。
この地点から取り付くのが分かりやすいです。
「従是東漸菴領」境界碑
堂ノ庭のあたりは大徳寺さんの寺領だった時期があり、いくつかの子院が山中に創建されたことで知られます(どうやら大徳寺の寺領は大宮周辺のかなり広い範囲に及んでいたようです)。
鷹峯から釈迦谷にかけては多くの信仰が入り交じっており、史学的な見地でも興味深い土地です。
東漸菴(東漸庵)じたいは日本の各地で見られた庵名で、たとえば、滋賀県東近江市蒲生岡本町に所在する臨済宗の東漸寺さんも、かつては東漸庵を称していました。
仏教が発祥の地から東の世界へ伝わることを仏教用語で「仏法東漸(とうぜん)」といいます。
余談ながら、釈迦谷山を「愛宕山」(元愛宕山)と呼んでいたという話がありますが、正しくは釈迦谷山の南東0.4kmに所在する約230m小ピークが「愛宕山」と呼ばれていたそうです。
非常に長いですが、この件については上の記事に詳しく。
また、釈迦谷山や、この愛宕山の周辺を、いわゆる鷹峯三山の「天峯」や「鷹峯」と呼ぶ地元の方もいらっしゃいます。
京見峠と堂ノ庭
車道歩きとなりますが、このまま府道31号を上り、ついでに京見峠にも寄っていきましょう。
ロードバイクの方に幾度となく後ろから追い抜かれたり、あるいは向かいから下っていらっしゃいますが、ハイカーの方は少なく、京見峠のあたりですれ違ったのみでした。
現在の京見峠付近からの眺望。木々の合間に京都の街並みや大文字山などが見えます。
1881年(明治14年)の『京都名所案内圖會 坤』(京都名所案内図会)や、その後継となる1887年(明治20年)の『京都名所案内圖會』に、
足上山
杉阪村ノ南ニアリ
山頭ヲ京見峠ト云フ『京都名所案内圖會』
と見え、このあたりの山域を「足上山」とも呼んでいたようです。
京見峠からは前坂を経て杉阪方面へ府道31号が続く、あるいは城山(堂ノ庭城跡)付近を経て西賀茂氷室方面へハイキングコースが続きます。
足を延ばしたい気持ちはありましたが、時間の都合もあり、このあたりで諦めて下山します。
足上山の件は上の記事が詳しい。
西陣杉坂線で撮影した夜景の写真も併せて掲載しています。
京見峠のやや下からは比叡山地の稜線が綺麗に見渡せます。
左端に水井山と横高山、右に「都富士」四明岳、右端に一本杉の周辺。
京見峠や、この付近を「堂ノ庭」(堂の庭)と呼び、古くから見晴らしの良い峠道として知られていました。
今も「京都市北区鷹峯堂ノ庭町」の地名に名前を残します。
堂ノ庭から京都一周トレイルのコースを上ノ水峠まで登れば、沢ノ池や沢山、あるいは菩提滝などを訪れることができますが、この日は谷としての釈迦谷を下ります。
「釈迦谷」は住所地名でもあり、谷の名称でもあるため、どこを指しているのか分かりにくいですが、谷としての釈迦谷は釈迦谷山の北の谷間です。
釈迦谷(氷室道)から秋葉神社へ下山
京見峠の下(堂ノ庭)から釈迦谷を下ります。やや荒れた道ですので慎重に。
この釈迦谷の道のりを現行のGoogleマップさんでは「氷室道」と表示していますが、「氷室道」(旧氷室道)がどこを指すかは地図や史料により異なります。
たとえば、昔の『山と高原地図』では「長坂越」の旧道を指して「氷室道」、府道31号を指して「新道」としていました。
府道を挟み、釈迦谷へ下山する地点の「反対」側から千束まで「長坂越」を下れます。
後日、長坂越の古道を歩いた話は上の記事に。
さておき、荒れた釈迦谷を秋葉神社さん方面へ下ります。
秋葉神社さんが近付くと、右手(南)に釈迦谷山の取付が見えます。
釈迦谷側(旧氷室道側)の釈迦谷山の取付点。京見峠・釈迦谷山・秋葉神社の分岐。
地形図に見える破線路の取付です。
北西は堂ノ庭(京見峠)、これは私が利用して下ってきたコースで、南は釈迦谷山を登るコース、これは上のほうで「釈迦谷山・釈迦谷(秋葉神社)・京見峠(堂ノ庭)分岐」とした地点(後述とした地点)と通じています。
南東は秋葉神社さんや尺八池を経て釈迦谷口のバス停留所へ。
秋葉神社さんからも裏山の秋葉山を経て京見峠まで登ることができます。
以前も他の記事で申し上げた気がしますが、秋葉神社さんは神社を称していらっしゃるものの、修験の道場としての性質が強く、本殿の裏には大きな岩があります。
数年前、秋葉山を経て京見峠や城山を登った話は上の記事に。
上の記事でも述べていますが、秋葉山は大宮の山であって、西賀茂の山ではありません。
釈迦谷山(地理院 標準地図)
「釈迦谷山(シャカダニヤマ)(しゃかだにやま)」三角点290.9m(三等三角点「釈迦谷山」)
京都府京都市北区
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