2016年(平成28年)4月の話。
カタクリ(片栗)のお花を観察がてら、京都北山の浅い山をハイキング。
急斜面に残る小規模な群生地に過ぎず、わざわざ遠くから見にいらっしゃるほどのことはありませんが、すっかり場所が広まったようで、近年は訪れる方が急増しています。
そのことにより、ハイカーや愛好家によると思わしき踏圧がひどく、生育環境に与える影響が懸念されます。
なんとかレコさんで「自然大好き! カタクリの中、子どもを走り回らせました!」といった記事を目にすると、たとえば、「猫大好き!」と言いながらネコさんを踏み潰して歩くのでしょうかと問いたくなりますが、考え方は人それぞれです。
カタクリ(片栗)。お花と葉。京都北山。
この山のカタクリは開花する時期が早く、近くの山のカタクリとは花期に差があります。
その近くの山の群生地も、4月半ばに花期を迎える地点と、4月下旬に花期を迎える地点に明確に分かれており、同じ山の中とは思えません。
これは他の植物の花期と同様、夜間気温や標高によるものと見ています。
3枚葉のカタクリ。急斜面の自生環境。
この斜面にはキンポウゲ科植物の葉が見えません。
付近にはヒメカンスゲ、ヤブツバキ、シキミなどが咲いています。
以前は谷間の急斜面にのみカタクリの葉が見られ、なだらかな谷底(谷の下部)まで下るとカタクリの葉は見当たらず。
谷底にはキンポウゲ科の植物の葉ばかりで、逆に谷間の急斜面にはキンポウゲ科の葉は見当たらず、奇妙な住み分けをしていました。
これは、シカ(鹿)が好まないキンポウゲ科の植物が谷底に残り、シカが入り込まない急斜面にカタクリが残るものだと考えていました。
ところが、’00年代の終わり頃から谷底にもカタクリの葉が広がるようになり、いずれはお花を咲かせるのではと期待していましたが、昨年あたりから少しずつ谷底でも開花するように。
カタクリ群生地のヒメカンスゲ(姫寒菅)。お花と葉。
適当なことを書いていますが、株を作っているので、これはヒメカンスゲではなく、他のカンスゲの仲間かもしれません。
林床で下草となるカンスゲの仲間はシカの食害に遭いやすく、急斜面のカタクリ群生地にカンスゲが残るのはシカが入り込まないからだと考えていました。
ついに谷底でもカタクリが咲くようになりました。
今後、どうなるかは分かりませんが、現状ではキンポウゲ科の植物と混生しています。
なぜ、谷底までカタクリが広がり出したのか気になり、少し谷の環境を調べてみました。
いつの間にやら谷の下部がひどく荒れており、どうもそれが原因でシカが入りづらくなった、のかもしれません。
急斜面の下から上を向いて撮影しています。
不思議なことに、落花したヤブツバキは、いずれもこちら(下方)にお花の「顔」を向けています。
試しにひとつ拾い上げ、高所から落としてみると、確かに下方に顔を向けるように転がります。
平坦な場所で落とすと一定ではありません。
奥に見える葉(前年葉)の上に載るお花はヤマザクラ(山桜)のお花です。
この谷には立派なヤマザクラの個体が何本かありますが、高所(尾根)で咲いているため、うまく写真を撮影できません。
このように、散った、あるいは落ちたお花を見て、ああ、頭上に桜の樹があるな、と察するのみです。
今はミヤコアオイ(カンアオイ)のみずみずしい若葉(新葉)が展開中です。
カタクリの花期が終わると、急斜面ではミヤコアオイの緑が地表に広がり、谷底ではニリンソウの開花が始まります。
カタクリの葉は地上から姿を消し、お花が咲いていた痕跡すら残りません。
いわゆる「スプリング・エフェメラル」(早春植物)の一種です。
その昔、当地はミヤコアオイを食草とするギフチョウの産地としても知られていたそうですが、見境なく乱獲されてしまい、残念ながら姿を消してしまいました。
ギフチョウとカタクリとミヤコアオイは3点セットのようなものなのに、惜しい話です。
2016年4月
京都府
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