2016年(平成28年)5月の話。
散歩がてら、京都北山でも里山と言える山をハイキングしていたら、遠くに濃いピンク色のツツジが……。
遠目にもすぐにミヤコツツジだと分かる花色でしたが、近くで確認することに。
付近には淡いピンク色のモチツツジが数多く咲いており、その中に混ざる「特別な色」のツツジは目立ちます。
京都北山のミヤコツツジ(都躑躅)。
赤紫がかったピンク色のお花。上の花弁の斑点が濃い。
ミヤコツツジはピンク色のお花を咲かせるモチツツジと赤色のお花を咲かせるヤマツツジの自然交雑種です。
その花色は個体差や地域差が見られますが、京都・北摂・丹波・六甲あたりのミヤコツツジに限れば、おおむね上の写真に写るような赤紫がかった濃いピンク色のお花を咲かせるようです(私が観察するかぎり、生駒・金剛ではまた異なります)。
ただし、とくに花色が濃いモチツツジも存在するため、それだけでは判断できません。
ありがちな話ですが、色濃いお花を付けるモチツツジはいくらでも存在しますので、お花の写真だけ載せられても、それがミヤコツツジかどうかは分かりません。
…前回の嵐山渡月橋の記事で、京都タワーの紫色がどうとかピンク色がどうとか言っていたのは、実はミヤコツツジの話のネタ振りでもありました。
どうもこの系統の色は撮影した写真の補正によって色合いが……。
京都北山のミヤコツツジ。
ガク(萼)と花柄。モチツツジより萼は短く花柄の粘り気は弱い。
モチツツジの萼は非常に長く、ヤマツツジの萼はきわめて短いです
ミヤコツツジの萼は両種の中間的な長さですが、深く五裂するあたり、どちらかと言えばモチツツジの影響が強いようです。
また、モチツツジの花柄や萼は毛が多く、「モチ」の名前が示すように、触るとねばねばしていますが、ミヤコツツジは毛が目立つものの、触っても粘り気は弱いです(上の写真の株に限れば、ほぼ粘りません)。
京都北山のミヤコツツジ。葉もモチツツジと比べると僅かに小さい。
モチツツジのお花は大きく、ヤマツツジのお花は小ぶりです。
ミヤコツツジのお花はモチツツジより明らかに小さく、葉もモチツツジより小さい印象を受けます。
全体的にモチツツジの影響が強い(モチツツジをベースにヤマツツジの特徴を付与した)ように思えますが、これは個体にもよりますので、一概に申し上げることはできません。
「ミヤコツツジ」の名前は京都に多かったことに由来しており、京都府では普通種の扱いですが、私の探し方がよくないのか、自生地(タイプ産地らしい)として知られる比叡山や松ケ崎(宝が池、妙法の周辺)を除き、京都盆地の山ではあまり見掛けません。
ここ何年か探していますが、私にとって馴染みある大文字山ですら見付けることができないのが現状です。
ところが、この日のように、とくに意識せずに山登りしていた時にかぎって出会うのが面白いところでしょうか。
今回の写真を撮影した山は京都盆地の内側ではありませんが、京都市内の山ではあります。
この山ではモチツツジは数多く咲いていましたが、ヤマツツジの花期は終わりに近く。
両種は花期が近いため雑種化するとされますが、私が見たところ、両種の花期は全く同じではなく、同じ環境であればヤマツツジのほうが僅かに花期が早いようです。
また、モチツツジとヤマツツジが同じ山に咲いているだけでは駄目で、同じ地点で混生し、(過去に)ツツジ群落化するくらいでないと現れにくいようです。
今年は4月下旬に北摂の彩都を訪れた際、茨木の山でミヤコツツジの咲き始めを見ることができ、幸先のよいスタートとなりました(が、その話は記事として残す時間がないままです)。
その後、京都の山ではなかなか見付けることができず、残念ながら今年は空振りかと思っていたところ、ヤマツツジも見納めが近い5月下旬になり、ようやく京都府下でもミヤコツツジを見ることができました。
モチツツジとヤマツツジが混生する環境で見られるミヤコツツジは生物の多様性を示す植物だと考えています。
何事にかぎらず、画一化された光景は味気ないもので、景観も自然も人も多くの選択肢を持てる社会を好んでいますが、それも私のエゴに過ぎません。
ミヤコツツジと同じ日に同じ山で撮影した写真です。
近年、京都府の山ではエビネの株数が回復傾向にあると聞きました。
エビネに限らず、姿を消していた植物が林床に出る例も見受けられます。
上の写真に写る林床は日照条件が昨年と大きく変化しており、来年以降、どのような影響を与えるか注目しています。
すでにマツカゼソウなどが侵入しており、いずれはエビネの生育を阻害するかもしれません。
ミヤコツツジについては、園芸用の栽培品種が都市部や山中の植栽地から自然に広がった、あるいは人為的に広められた可能性も考慮する必要があります。
過去に和泉山脈で確認した例では、山中の標高が高い地点にヒラドツツジと思わしきツツジが野生化していました。
その話は過去の記事で少し取り上げています。
2016年5月
京都府京都市
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