2016年(平成28年)11月2日の話。
この日は午後遅くから関西電力さんの枚方変電所周辺を訪れました。
枚方市には「南枚方変電所」がパナソニックベースボールスタジアムの南東に所在するので少しばかり紛らわしいですが、今回の記事で取り上げる「枚方変電所」は大阪府交野市東倉治に所在します。
こちらは単純な所在地だけを見れば交野の変電所といえそうですが、枚方市津田南町との市境に隣接する地域ではあります。
ハイカーにとっては交野山や国見山の山麓にあたるといえば分かりやすく、あるいは「源氏の滝」の北側と申し上げてもよいでしょう。
一般的には第二京阪道路の交野北インターチェンジ付近や、交野カントリー倶楽部へ向かう車道の上り口付近と説明するのが分かりやすいでしょうか。
いかにも変電所の近くらしく、送電線が空を行き交っており、交野山や国見山の周辺は送電鉄塔銀座の様相を呈しています。
交野市 枚方変電所と古墳塚
便宜上、今回の記事の後半で紹介している送電鉄塔の展望地を、上に表示される地理院地図の中心点としています。中心点の西側に見える広い敷地が枚方変電所で、中心点の東側に見える三角点240.7m峰が「北山(きたやま)」です。
この山は三角点の点名から「倉治山(くらじやま)」とも呼ばれており、ちょうど交野市と枚方市の市境に所在します。
地形図で見ると、枚方変電所は北山(倉治山)の西麓に位置することが分かります。
枚方変電所の西に交野北インターチェンジが見えますが、第二京阪道路には交野南インターチェンジもあり、そちらの所在地は枚方市茄子作の付近です。
交野南インターチェンジが枚方にあり、枚方変電所が交野にあるという、少しばかり複雑な事態に。
もっとも、枚方と交野はきわめて繋がりが強い土地ですので、さほど不思議な話ではありません。
古墳塚の周辺。関西電力枚方変電所の東、倉治公園の北東、交野カントリー倶楽部へ向かう車道の付近。
枚方変電所の東側、北山(倉治山)の西麓は倉治古墳群ゆかりの「古墳塚」として整備されています。
写真では右端に関西電力さんの巡視路を示す赤い標が見えますが、後述する送電鉄塔の展望地まで山を登る場合、この「隙間」から取り付くのではなく、写真の左手(北側)に大きく回り込みます。
「古墳塚について」解説板。交野市教育委員会・関西電力枚方変電所。
大阪府交野市東倉治と枚方市津田南町の市境付近。
「はたもの(交野市倉治)」と「はただ(枚方市津田)」の境にあたるので、解説にも双方の地名が挙がります。
「はたやま(交野市寺)」の上にあたる竜王山(龍王山)(標高点321m)の山名も見えますね。
どこに限らず、関西電力さんの解説や案内には細かな地名や山名が多く見られるので勉強になります。
発電や送電と山は切っても切り離せない関係にあり、電力会社の関係者さんは山について詳しい方が多く。
余談ながら、地元の方によると、(北山に対して)龍王山が「中山」にあたるそうです。
南山もあるとのことでしたが、正確な場所を聞きそびれました。
龍王山は古くは「嬰児(みどりこ)山」と呼ばれた山で、1929年(昭和4年)の『日本性的風俗辭典』(日本性的風俗辞典)が「小野小町」の項で引く、1928年(昭和3年)の『原始母神論』(原始母神論)に「河內國北河內郡磐船村字寺村の嬰兒山は今は龜(龍)王山と云つて、其上に巨石を祭る。此山の麓にバリコキ石といふのがある。其石の面には股間から小便が流れ出る如くに見ゆる形があるといふ。此小便も其山の名を嬰兒山と稱するより見れば、始は產の水と見られたので、分娩を表はしたと思はれる。」などと見えます。
磐船村字寺村(磐船村大字寺)は現在の交野市寺、大字寺にあたりますが、「バリコキ石」は「イバリ石」と呼ばれている岩でしょうか。
破水(羊水)にたとえた描写から見て、嬰児山や、付近の「オチゴ谷」(落子谷)と無関係ではないでしょう。
このオチゴ谷は「をち谷」(乳母谷)(おち=御乳)とも呼ばれていました。
『日本性的風俗辞典』における「龜(龍)王山」の箇所は、印刷潰れで「龜(亀)王山」か「龍王山」か分かりにくい。
↓
孫引きではなく、『原始母神論』の原文も確認しましたが、龍王山ではなく「龜王山」となっています(が、これが誤字や誤植であるか不明)。
同書の著者、出口米吉は在野の民俗学者。
性に寄って研究した影響もあり、当時の民俗学の本流から外れ、今は知る人が少ないという。
↓
どうやら誤植というわけでもないらしい。
かつて、私市に所在した観音寺(千手寺)の山号が「龜王山」で、獅子窟寺御幸に際し、当地を行宮(行幸の際の一時的な仮宮)とした亀山上皇に因んだのではないか云々といった話が1931年(昭和6年)の『北河内郡史蹟史話』に見える。
観音寺址(千手寺址)には「此附近亀山上皇駐蹕私市観音寺」碑が建つ。
「駐蹕(ちゅうひつ)」は行幸の際の一時的な滞在地。
この亀王山と龍王山が混同されたのではないか。
追記。
北河内郡の古い地名や記録を調べていたら、磐船村大字寺の内に、北山、中山、南山、ミナミ山、巽ミ山の小字を見つけました。
ミナミ山は南山とは別の小字ですが詳細不明。巽は南東の意でしょうか。
中山が、現在、龍王山と呼ばれる山として、北山、南山も同じ寺地区の内に所在したとすると、本来、北山と倉治山は別の山だったのかもしれません。
ただ、この北山、中山、南山、巽ミ山(おそらく南東山の意)といった小字は、ピークとしての山名ではなく、寺地区内の山域区分として用いられていただけのような印象も受けます。
追記終わり。
追記。
1966年(昭和41年)に設置された四等三角点「倉治山(くらじやま)」の「点の記」に目を通してみると、所在地は交野市倉治、土地所有者は大字倉治財産区。
改めて確認するまでもなく、倉治は交野市の地名ですから、北山の呼称も、倉治山の呼称も、どちらも交野市側に由来すると考えていましたが、倉治山は枚方市側における呼称だという意見もあるようです。
倉治山呼びは、この山が「北山」と呼ばれていたことを知らない近年のハイカー間における呼称(三角点の点名に由来する俗称)だと思い込んでいたので、その見解には少し驚いてしまいました。
実際のところがどうであるかは分かりません。
追記終わり。
この「古墳塚について」解説板の北側に回り込むと、山の中腹に聳え立つ送電鉄塔の姿が目に入ります。
北西の津田駅方面へ向かう車道から外れて山手の道を上っていきます。
北河内線 60号鉄塔下の展望・眺望
交野山・国見山の関電巡視路。送電鉄塔の下の展望地へ。鉄塔番号「北河内線 六〇」。
舗装された道から、やがて巡視路特有のプラ階段に変わりますので、上に見える大きな送電鉄塔を目指して登ります。
ものの数分で見晴らしの良い送電鉄塔(鉄塔番号「北河内線 六〇」)の下に出ます。
地形図上で辿ってみると、北河内線は牧野変電所から新生駒変電所を繋いでいるようで、枚方変電所の中は通っていません。
枚方変電所の上、北山(倉治山)西麓の送電鉄塔からの展望。大阪府交野市。
西日が眩しい中、大阪の高層ビル群、あべのハルカスや神戸の六甲山を遠望する。
主な山、建築物 | 距離 | 標高 (地上高) | 山頂所在地 | 備考 |
---|---|---|---|---|
あべのハルカス | 24.0km | (300m) | 大阪府大阪市阿倍野区 | |
摩耶山 | 46.4km | 702m | 兵庫県神戸市灘区 | |
六甲山最高峰 (六甲最高峰) | 40.5km | 931.3m | 兵庫県神戸市北区 兵庫県神戸市東灘区 | 六甲山地最高峰 |
畑山 | 40.4km | 528.7m | 兵庫県西宮市 |
逆光で暗いですが、枚方変電所の施設が眼下に広がります。
その先には交野や寝屋川の街並みが開け、さらに遠方には大阪のビル群や神戸の六甲山も明瞭に見えています。
この日は朝のうちは空気が澄んで遠くまで見えやすく、京都から奈良の大峰山脈まで見えていたようですが、私が交野や枚方を訪れた午後遅くには遠霞みの空となっていました。
それでも、大阪方面と六甲方面の間には須磨の山々や淡路島北部の島影もうっすらと写っており、いかにも秋らしい青空に満足します。
私は街中や住宅街では基本的に写真を撮影しない(したくない)ので、わざわざ山を中途半端に登っていますが、あべのハルカスや六甲山は東倉治の山手で開発が進む新興住宅地から見通すことができます。
少しうろうろしてみて、このあたりの環境を羨ましく思った次第です。
計算上、この送電鉄塔の展望地から明石海峡大橋の一部も見えますが、上の写真では場所が分かりません。
また、右端に見える畑山の手前にはザ・千里タワーも写っており、エキスポシティの大観覧車オオサカホイールや「太陽の塔」も構図に収めていますが、やはり上の写真では場所が分からないでしょう。
写っている、写っていないで言えば、上の写真に大観覧車も写っています。
場所柄、望遠レンズを出してまで撮影する気は起きず、広角レンズで撮影した写真が1枚のみ。
この巡視路は、いわゆる「行ってこい」状態にあり、60号鉄塔の先から北山(倉治山)を登頂するのは困難です。
巡視路の最奥から強引に西尾根に乗れなくもありませんが、現状、酷い藪漕ぎを要求されるでしょう。
登ったところで三角点や山名標以外は何もない山ですので、とくにお勧めはしませんが、どうしても「下から」北山(倉治山)の山頂を踏みたいという場合は、南尾根から登頂することをお勧めしておきます(国見山ハイキングついでに上から下るほうが容易です)。
この記事の冒頭に戻り、古墳塚の分岐から、交野カントリー倶楽部さん方面の車道を進みます。
交野市・枚方市 北山(倉治山)を登山するには
ボーイスカウトの野営場を過ぎると、交野カントリー倶楽部さんのゲートに着きます。
ここでゴルフ場へ向かう車道から外れ、ゲートの手前で左(北)を向くと「消防隊進入口」があります。
他のコースもありますが、現状、北山(倉治山)はここから入山するのが分かりやすいでしょう。
付近は路駐できないので、自家用車で訪れる方は注意。
北山(倉治山)の交野カントリー倶楽部側取付点。消防隊進入口。駐車禁止。
この奥まで詰めればダムがありますので、その左(西)の斜面から強引に取り付きます(少し手前の植林からでも取り付けます)。
薄い踏み跡を折り返すように辿っていけば、地形図では破線路として描かれる北山(倉治山)の南尾根に乗れます。
ただし、きわめて急登で、かつ、斜面は湿って滑りやすいので、無理に登るのは止めておくのが無難でしょう。
南尾根に乗れば、あとは送電線の下を抜けて山頂まで稜線伝いに登るのみで、とくに険しい区間はロープも設置されています。
取付こそ分かりにくいものの、山頂までの登山道は関電さんの巡視路や、あるいは国土地理院さんによる三角点の観測コースとしても利用されており、道そのものを見失うことはないでしょう。
今回の記事はここまで。
この後、国見山を登った話は上の記事に。
関連記事 2016年11月 国見山サンセットハイク
すべて同日の山行記録です。併せてご覧ください。
- 交野市 枚方変電所 北山(倉治山)の送電鉄塔から六甲山を遠望
- 国見山の展望 明石海峡大橋に沈む夕日 翻る旗 枚方八景
- 枚方 国見山 展望デッキの夜景 オレンジリボンの京都タワー
北山(倉治山)(地理院 標準地図)
「北山(キタヤマ)(きたやま)」別称として「倉治山(クラジヤマ)(くらじやま)」
標高240.7m(四等三角点「倉治山」)
大阪府交野市、枚方市
最近のコメント