京都 衣笠山ハイキング 氷室の身代不動王院~金閣寺 絹掛山

今日、2015年(平成27年)6月30日は夏越祓(大祓)の日。
毎年にように訪れていますが、今年も夏越祓は白峯神宮さんを参拝。

京都市上京区 白峯神宮 夏越祓

白峯神宮 夏越祓(大祓) 茅の輪くぐり 京都市上京区 2015年6月30日
夏越祓(夏越大祓)の日、白峯神宮さん(京都市上京区)で茅の輪くぐり。

今日は朝から曇りがちの空模様で、夕方には雨が降り始めましたが、なぜだか私が白峯神宮さんを訪れていた時間帯は青空が覗いており、妙に明るい写真となりました。
この後、山の上で撮影した写真とは大違いです。

水無月(みな月)と氷室

京都では夏越祓の日に暑気払いとして「水無月」(みな月)をいただく風習があります。
水無月は白い外郎(ういろう)の上に小豆をのせたお菓子で、白い外郎は氷を、小豆は厄払いを表しています。
この時期になると、古くは氷室、つまり、氷の貯蔵庫に蓄えられていた氷を宮中に献じていました。
夏越祓の日に水無月をいただくのは、この行事にあやかったものです。
京都には何ヶ所かの氷室があったことが知られており、とくに北区西賀茂氷室と北区衣笠氷室、左京区上高野氷室は今も住所地名に名を残しています [1]
夏越祓の日が近付くと、西賀茂氷室、古名でいえば愛宕郡栗栖野の氷室、ハイカーの方々にとっては十三石山や京見峠、城山といった周辺峰でお馴染みでしょう……、その西賀茂氷室を訪れ、氷室神社さんにお参りし、氷室の山間風景を眺めながら水無月を食べる、といったお遊びに興じていた頃もありました。

京都市北区・右京区 衣笠山を登山

白峯神宮さんを参拝後、どうしたものか思案しましたが、少しだけ時間もあることですから、今年は西賀茂ではなく、同じ北区でも衣笠氷室の裏山、つまり衣笠山を登ることにしました。
衣笠山(きぬがさやま)は龍安寺さんや等持院さんの裏山でもあり、立命館大学さんの裏山でもあります。
私は昔から立命館大学さんの駐輪場の横(第1バイク置場の南西)から強引に衣笠山へ取り付くことが多く、今日も登りは慣れ親しんだコースを選びます。
ただし、これはとても正規の登山道とは言えません [2]
尾根に取り付き、山頂の真東あたりから西向きの急な斜面を一気に登ります。
シダをかき分けながら登る山道ですが、距離としては最短で、10分程度で登頂できるでしょう。
このコースは山頂の直下で東向きが開けており、比叡山や松ヶ崎の山々を眺めることができます。
東の斜面を直登せず、山頂から見て北東側まで回り込めば、よく歩かれている衣笠保育園(→衣笠こども園)からのハイキングコースに出ます(が、それならそもそも堂本印象美術館側から安全に登れば良いでしょう)。

衣笠山から比叡山を眺望

衣笠山から比叡山、五山送り火「妙法」の字跡を望む 京都市北区 2015年6月
衣笠山の山頂直下から比叡山、五山送り火「妙法」の字跡を望む。

主な山距離標高山頂所在地備考
四明岳
(比叡山)
10.3km838m京都府京都市左京区都富士
横高山
(釈迦ヶ岳)
12.0km767m京都府京都市左京区
滋賀県大津市
水井山
(阿弥陀ヶ峯)
12.4km793.9m京都府京都市左京区
滋賀県大津市

西の低山から望むため、大比叡の山頂は見えず、比叡山でも京都市側にあたる四明岳の山頂や施設が見えるのみ。
「妙法」の手前(南西)の緑地は京都府立植物園さんで、「妙法」の左(西)に連なるのは深泥池の裏山や上賀茂神社さんの裏山です。

私の周りで巨大なスズメバチが巡回飛行していたため、比叡山を拝む写真を1枚だけ撮影し、追われるように登頂してしまいます。

衣笠山の山頂

衣笠山の山頂周辺 標高201m 京都市北区、右京区 2015年6月
衣笠山の山頂周辺。京都市北区、右京区。標高201m。「衣笠山国有林」を示す標。
古くは「蓋山(きぬがさやま、かさやま)」とも記され、あるいは「絹掛山(きぬかけやま)」と呼んだとする説も。

絹掛山の由来 衣笠山の由来

「衣笠山」
葛野郡衣笠村字等持院
等持院の後山を絹笠山といふ一に蓋山に作る形狀蓋に似たるを以てなり又一說に絹掛山といふ盖し宇多法皇御室に於て夏季雪景の觀を作らんとて全山に素縑をかゝけさせたまひしに因ると言ひ又足利義滿の遺事を傳へたれといかゝにや山容温籍にして愛すへし古來和歌に詠まれて其名著し
『京華要誌 下』

「固織り(かたおり)」が転じたとされますが、「縑(かとり)」は固く織った平織りの絹布で、「素縑(そけん)」は白い縑。

「絹掛山」の由来は諸説ありますが、よく知られる「水無月の頃、御室の宇多法皇(宇多天皇)が山に白絹を掛けさせ、夏の京都で冬の景色を再現しようとした」説を、1895年(明治28年)の『京華要誌 下』から引いておきます。
この時期に私が衣笠を訪れた理由のひとつでもあり、涼を取る氷室のエピソードに通じるものがあります。
ただし、「蓋(かさ)」の形状に由来するとされる「衣笠山」の呼称と異なり、宇多法皇や、あるいは足利義満の故事に由来するとされる「絹掛山」の呼称は、多くの史料で「~という言い伝えもある」や「~という説もある」「その真偽はさておく」といった扱いを受けており、伝承や創作の部類だと考えられていた点には留意する必要があるでしょう。
また、「衣笠山」の呼称についても、『大日本地名辭書』(大日本地名辞書)の編者として知られる吉田東伍による、「樹ノ蓋(きのかさ)」が衣笠に転じた説や、その説に対し、古歌との関係や、その山容から「御蓋の山」(奈良春日の三笠山)と同義ではないかとする『西陣鄕土讀本』(西陣郷土読本)の説などがあります。
なぜ「西陣の郷土」として(西陣から離れた)衣笠を取り上げているのかといえば、戦後に廃校となった京都市立西陣商業高校(市立第二商業学校)の所在と関係していますが、この話は長くなりますので、また別の機会があれば。

山頂から北へ少し進めば、西の朱山方面と北東の身代不動王院さん方面の分岐点。
せっかくですので、龍安寺さん側へ山を少し下り、朱山の一條天皇陵(一条天皇陵)・堀河天皇陵へお参り。
私は京都市北区側にあたる立命館大学さん側から登ってきましたが、一條天皇陵・堀河天皇陵や、その山麓にあたる龍安寺さんは右京区に所在します。

一條・堀河天皇陵からの展望

一條天皇陵・堀河天皇陵から眼下に京都盆地を望む 2015年6月
一條天皇陵・堀河天皇陵(京都市右京区)から眼下に京都盆地を望む。
撮影地点から生駒山(奈良県生駒市、大阪府東大阪市)まで39.8km。
京都タワー(京都市下京区)まで6.4km。

一條天皇陵・堀河天皇陵は見晴らしが良い好展望地として知られていますが、あくまでも御陵であり、本来は展望を目当てとして訪れる場所ではありません。
衣笠山は京都盆地の北西縁に所在しており、眼下には京都盆地の北西~西~南~南東方面を一望できます。
京都タワーや遠くの生駒山は明瞭に見えており、生駒山の左には金剛山もうっすら見えていましたが、お天気は下り坂、ひどくどんよりした空模様で、どうにも写真映えしません。
露出をオーバーにして撮影しないと真っ暗な写真となってしまいます。

鷲峰山や生駒山など、望遠レンズでも何枚か写真を撮影し、そろそろ下山することにします。
この日は一條天皇陵・堀河天皇陵から衣笠山へ引き返していますが、そのまま朱山の参陵道を道なりに進めば大内山を経て宇多天皇陵へ。

大内山 御室仁和寺 金堂越しに大内山? を望む 2016年2月

京都 大内山 御室仁和寺~原谷道~宇多天皇陵 ハイキング

2016.09.23

仁和寺さんの裏山にあたる大内山の話は上の記事で。

さておき、一條天皇陵・堀河天皇陵を去ります。
衣笠山の山頂の北西側を巻くように付いている山道を歩き、北東尾根のコースを取ります(山頂は巻けます)。
コースは北東尾根の先から南東へと直角に折れ曲がり、立命館大学さんや衣笠保育園さん方面へ下れますが、この急な曲がりの25mほど手前で北側をよく見ると、目印となるテープと踏み跡が付いており、今日はそちらへ。
あとは崖上を道なりに下っていけば身代不動王院さんへ。

衣笠氷室町 身代不動王院

身代不動王院(衣笠山 身代不動明王) 京都市北区衣笠氷室町 2015年6月
京都市北区衣笠氷室町に所在する身代不動王院さん(衣笠山 身代不動明王)。
「衣笠山」を山号となさる、文字どおり、衣笠山のお寺さんです。

衣笠山の山頂は北区衣笠衣笠山町と右京区龍安寺朱山の区境にあたりますが、北東麓にあたる身代不動王院さんの所在地は北区衣笠氷室町です。
大した意味はありませんが、夏越祓の日に、「水無月」とゆかりある氷室の裏山を登りました。

知らずに訪れた方はまず分からない、気付かないと思いますが、お堂(祠)の右側に見える細く狭い隙間から衣笠山へ入ります。
私は下りに利用しましたが、登りに利用する方のために写真を何枚か。

身代不動王院 衣笠山登山口 2015年6月
お堂(祠)の脇、「こっち」の奥から衣笠山に取り付くことができます。

この「(金) こっち」の道標は、以前は衣笠山の山中でも見ることができましたが、今は失われてしまったようです。
これは鹿苑寺金閣への道のりを示しており、衣笠山から「こっち」に従い下山すれば、身代不動王院さんから金閣寺さんへ向かうことができます(できました)。

氷室道の衣笠山登山口

氷室道 身代不動王院(衣笠山 身代不動明王)の参詣道 京都市北区 2015年6月
衣笠から原谷へ抜ける街道、いわゆる「氷室道」から見た身代不動王院さんの参詣道。
身代不動王院さんは西園寺記念館の西側に所在します。

衣笠山の衣笠氷室町側の登山口にあたります。
ここから金閣寺さんまで大した距離ではありません。

※よく知られる衣笠山のハイキングコースは(堂本印象美術館の西側に回り込んで北へ向かう道~衣笠幼稚園さんの脇~)衣笠保育園さんの脇から取り付くコースです。今回、私が歩いたコースは一般的なコースではありません。念のため。

上記の件で追記。
昔の記憶で「衣笠保育園」としましたが、いつの間にやら「衣笠こども園」となっており(どうやら本記事を公開した2015年に認定こども園となったらしい)、さらに、2020年(令和2年)4月より衣笠幼稚園と衣笠こども園が事業合併して「認定こども園 衣笠幼稚園」となりました。
いずれにせよ、園の脇の山道から衣笠山に取り付けます。
現行の地理院地図では衣笠中学校さんの北側からのコースが破線路となっていますが、そちらも園の脇から登るコースと合流します。
追記終わり。

余談ながら、氷室道の奥に所在する不思議之谷の不思議不動院さんもなかなか興味深いお寺さんです。
俗に「お狐山」や「不思議さん」と呼ばれ、大文字山の「大」の字跡を真正面に望むスポットでもあります。
逆に、大文字山の火床から見通せることも、過去の記事で示していますが、確か、雪の日の記事だったような……。
地理院地図では奥の社(お狐山)を神社記号、太宝寺さん(不思議さん)を寺院記号としています。

この日、一條天皇陵・堀河天皇陵で撮影した遠景の写真は、

圓融寺北陵(一條天皇陵)、後圓教寺陵(堀河天皇陵) 京都市右京区 2015年6月

一條天皇陵・堀河天皇陵の展望 京都タワーや生駒山を遠望

2015.07.01

上の記事に掲載していますので、興味がある方はそちらをどうぞ。

関連記事 2015年6月30日 夏越祓と氷室

すべて同日の山行記録です。併せてご覧ください。

衣笠山(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「衣笠山」周辺の地図を表示
「衣笠山(キヌガサヤマ)(きぬがさやま)」
標高201m
京都府京都市北区、右京区

「白峯神宮」
京都府京都市上京区飛鳥井町 付近
「一條天皇陵」「堀河天皇陵」
京都府京都市右京区龍安寺朱山 付近
「身代不動王院」
京都府京都市北区衣笠氷室町 付近

脚注

  1. 他に御室の東、西住吉山に所在したとされる「徳岡氷室」や長坂に所在したとされる「長坂氷室」、梅ヶ畑平岡村に所在したとされる「鵜原氷室」など。「長坂の氷室」は古歌に詠まれますが、いわゆる長坂越の付近に氷室が所在したのか、長坂を登った先にある西賀茂の氷室(栗栖野の氷室)と混同されたのか分かりません。『皇州緒餘撰部 山城國舊地圖』(山城国旧地図)ではきわめて近い位置に「長坂の氷室」と「栗栖野の氷室」が描かれています。『中古京師内外地圖』(中古京師内外地図)では、衣笠山の北に「宇田氷室」(宇多氷室)が描かれていますが、同地図は全体的に所在地の正確性が疑わしく、本記事で取り上げる衣笠の氷室と場所を混同しているように思えます。ただし、「宇多の氷室」じたいは他の史料でも名前が見え、古歌にも詠まれます。「宇多」ですので、御室の東(徳岡の氷室)との混同があるかもしれません。また、古歌に詠まれる「松ヶ崎の氷室」は松ヶ崎に実在したのか、隣接する上高野の氷室を指すのか不詳とされます。他記事で取り上げていますが、岩倉大雲寺の境界証文では、岩倉の北に「静原氷室山」が所在したとも見えます。[]
  2. ここから入山する姿を過去に何度も警備員さんやらに目撃されていますが、とくに何も言われず、基本的には黙認されると考えています。が、あまり褒められた行為ではないとも自覚しています。[]

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Maro@きょうのまなざし

京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!