鷹峯三山 天峯(桃山)ハイキング 護法ヶ谷から吉兆山へ

年の瀬が迫ることもあり、なかなか更新できず、すっかり間が空いてしまいました。
とくに悪天候でもないかぎり、例年どおり大晦日には大文字山を登っていると思いますが、その前に、大文字山以外の山で今年の登り納めをどこにするか、さすがにそろそろ決めないといけません。
そういえば、今年は京都タワーさん、クリスマスカラーのライトアップをなさらないのですね、などと。

さておき、2015年(平成27年)11月16日の話。
紅葉の様子を見に訪れた鷹峯の光悦寺さんで、いわゆる「鷹峯三山」や京都の風景を眺めました。

光悦寺 「鷹峯三山(鷹峰三山)」景勝地 京都市北区 2015年11月

光悦寺から「鷹峯三山」を望む 鷹峯(兀山)、鷲峯、天峯(桃山)

2015.12.16

秀麗な山容を誇る「鷹峯(鷹ヶ峰)」や「鷲峯(鷲ヶ峰)」はもちろん、「天」を名前に頂くにふさわしい、標高としては三山で最も高い「天峯(天ヶ峰)」にも惹かれます。
隣接する沢山は今年の9月に訪れていますが、天峯……、山麓の地名(京都市北区鷹峯桃山)から、ハイカーの間では「桃山(ももやま)」と呼ばれていますが、近年、その桃山は登っていません。
光悦寺さんを後にし、ついふらふらと千束の農林橋方面へ足が向かいます。

鷹峯・光悦寺から「鷹峯三山」天峯(天ヶ峰)を望む 2015年11月
鷹峯の光悦寺さんから「鷹峯三山」天峯(天ヶ峰)を望む。
私個人の見解は別として、現状、桃山を指して「天ヶ峰」となさるのは光悦寺さんの考えによるものだと考えられます。

光悦寺さんからは少し離れているため、他の二山と比べると遠く感じます。
そういえば、光悦寺さんにいらっしゃった観光客らしき方が、天峯(天ヶ峰)を指して「あまがみね」と呼んでいらっしゃいましたが、私は「てんがみね」と呼んでいます。
京都北山の「天ヶ岳」や「天ヶ森」をどう読むか、に近い問題です。
元禄3年(1690年)の『名所都鳥』では、「鷹峯三山」の「天が峰」に「てん」と振り仮名を振っており、江戸時代には「てんがみね」と呼ばれていた可能性があります。

この天峯、つまり桃山を単体で登山する方は珍しく、一般的に、その西に所在する沢山や吉兆山と併せて登る山とされますが、時間的な余裕もなく、軽く桃山のみを登るか、せいぜい桃山と吉兆山を登るに留めておこうと考えます。
この日は光悦寺さんを起点としているため、千束の農林橋を渡った原谷側からではなく、農林橋を渡らず、天神川(紙屋川)の源流沿いの鷹峯側から桃山を登るコースを選ぶことにしました。
都市計画基本図によると、吉兆谷から流れ出る川の名前を「吉兆谷川」としており、その吉兆谷川は東海自然歩道沿いでは「天神川」と名前を変えています。
この天神川源流は農林橋の下で原谷から出る原谷川を合わせ、鷹峯へと流れます。
昔の記憶が正しければ、天神川源流沿いに東海自然歩道を上り、千束と坂尻の間あたりから山に入れば短時間で桃山を登頂できたはずですが、すっかり取付を見逃してしまいます。

天神川の源流 左岸の治山事業 京都市北区鷹峯 2015年11月
鷹峯・天神川源流域(吉兆谷川→天神川)左岸の治山事業(山腹工)。

吉兆谷川の左岸、新たに整備された立派な山腹工に目を奪われてしまいました。
この地点から少しだけ奥、道路の反対側の斜面に目印となるテープが付いており、そちらから桃山に取り付くことができますが、山腹工の周辺を横目に見ながら歩いていたため見落としてしまいます。
看板には「平成25年度治山事業」と記されていますが、施設そのものには「平成26年度治山施設」と記されていました。
いずれにせよ、近年の整備事業です。

2023年(令和5年)、追記。
そろそろ事実を記録しておくとしましょう。
私が「取付を見落とした」本当の理由は、この時、道の向こうから猫と散歩する女性がいらっしゃり、このあたりですれ違ったからです。
おそらくは千束から往復なさったのでしょうが、(その先には山しかない)坂尻方面からラフなスタイルで歩いていらっしゃったので、軽く混乱しました。
それも、犬ではなく猫を連れて、です。
追記終わり。

千束を過ぎ、東海自然歩道の坂尻も過ぎてしまいます(ただし、集落としての坂尻はまだ先)。
この先は坂尻の集落付近から吉兆谷川源頭の林道を経て吉兆山を登るか、上ノ水峠を経て沢山などを登れますが、それではあまりに遠回りです。
そこで、坂尻の集落の手前、いわゆる坂尻下から、今はあまり利用されない古いコース、護法ヶ谷を詰めて桃山を登山することにしました。

この谷について、古い道標では「一ノ谷」となっていたため、記事の初稿では一ノ谷(一の谷)としましたが、住所地名は京都市北区鷹峯護法ケ谷にあたり、また、古くは護法ヶ谷鉱山(吉兆鉱山護法谷鉱床)が所在したことも確認できたため、「護法ヶ谷」と改めておきます。
道標の「一ノ谷」は護法ヶ谷の別称か、東海自然歩道の谷筋(吉兆谷の延長)か、どちらを指しているか判然としません。

桃山・吉兆山ハイク 東海自然歩道「坂尻下」から「護法ヶ谷」へ 2015年11月
桃山・吉兆山ハイキング。東海自然歩道の「坂尻下」から「護法ヶ谷」へ。
東海自然歩道「坂尻0.4km・千束1.4km← →中川4.0km」道標。

道標には「←坂尻0.4km」とあり、坂尻を過ぎたように見えますが、集落としての坂尻はもう少し先です。
千束第八橋、地形図ではこのあたり から南の谷へ入ります。
上の写真では右に見える谷で、ちょうど、桃山(天峯)と吉兆山の間の谷間となります。
写真の左手(東)の斜面に古い作業道が残っており、そちらからでも取り付くことができます。

坂尻下から桃山・吉兆山の「護法ヶ谷」取り付き 古い作業道 2015年11月
坂尻下から桃山・吉兆山の「護法ヶ谷」取り付き。古い作業道。

なかなかの急傾斜ですが、かなり先まで舗装された道が続いているところを見ると、大昔は軽トラックでも上がれたのでしょうか。
木馬道の名残として、このような形状で舗装したのかもしれません。
ただし、少し登ったあたりで舗装路が崩れているため、現在は車で入ることはできません。
高度を上げると先ほどの谷からのコースと合流します。
お昼過ぎで太陽が高く、南向きは眩しいですが、北面の谷ということもあり、山中に入ると暗く感じました。

この谷は地形図では破線路の扱いですが、今となっては利用するハイカーも少ないようで、ひどく荒れた道のりです。
このコースは倒木が多い植林帯の中を登ることになり、よほど好きな方は別として、景色としても楽しいものではありません。

1944年(昭和19年)の『京都北山と丹波高原』(改定版)に、

坂尻の少し手前で南へ入る谷は二粁足らず入ると、桃山側にマンガンの鑛山があり、その向ひ側には金鑛山があつたが、現在は廃坑になつてゐる。共に市内である。この谷は鑛山から上は荒れてゐるが、略〻點線路の如くに桃山への尾根に達することが出来る。
『京都北山と丹波高原』

と見えます。

この山域にマンガン鉱山があったことは存じていましたが、京都市内に金鉱山があったとは露知らず。
「桃山側にマンガンの鑛山」、これは谷の東側を指していますので、「その向ひ側には金鑛山」、これは谷の西側を指しています。
機会があれば鉱山跡も調査してみたいものです。

丹波のマンガン鉱床(京都市東北部)|京都府レッドデータブック2015
https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/geo/db/soi0020e.html

追記。
京都市内の金鉱山について、古い史料(主に鉱山局の記録)を調べてみましたが、かつて、北山の某山(これは桃山とは全く異なる山です)で金を採掘しようと大金を投じた方がいらっしゃったものの、どうやら結果が出なかったらしいことなどが分かり、なかなか面白かったです。
護法ヶ谷のマンガン鉱山は1970年代までは継続して採掘されていたようですが、レッドデータブックにも見えるように、鉱床の規模は小さなものだったようです。
追記終わり。

桃山・吉兆山 護法ヶ谷 スギの植林帯と小滝と巨岩 2015年11月
護法ヶ谷。桃山と吉兆山の谷間。スギの植林帯と小滝と巨岩。

うっそうとしていましたが、このあたりの景色や雰囲気は美しいものがありました。
小さな滝と大きな岩を巻きながら、今にも崩れそうな崖の上の道を慎重に歩きます。

…書いているうちに思い出してきましたが、たしか、前日に雨が降って地面が濡れており、それで危ないと感じたのでした。

桃山・吉兆山 護法ヶ谷コース 古い作業小屋の残骸と苔むした山道 2015年11月
護法ヶ谷コース。古い作業小屋の残骸と苔むした山道。

このあたりまで登れば一安心。
上のほうが明るく開けており、桃山と吉兆山の鞍部に至るまであと少しです。
日当たりがよくない影響でしょうか、山道は苔むしており滑りやすく。

桃山の山頂と吉兆山の山頂の鞍部 護法ヶ谷岐れ 2015年11月
桃山の山頂と吉兆山の山頂の間。護法ヶ谷・一ノ谷岐れ。

このあたりに出てきます。
写真では正面(北)が護法ヶ谷(あるいは一ノ谷)、右(東)が桃山方面、左(西)が吉兆山方面。
背後の南から日が差し、先ほどまでの妙に薄暗い谷間が嘘のようです。

谷への降下点となる目印のテープだけではなく、昔は「一ノ谷へ」と直接的に示す道標もあったように記憶していますが、今は失われたようです。
少し探してみたところ、過去、2007年(平成19年)に撮影した写真が見付かりましたので、ついでに掲載しておきましょう。

桃山・吉兆山から「坂尻下・一ノ谷→」の道標 2007年2月
今は失われた? 桃山・吉兆山から「坂尻下・一ノ谷→」の道標。2007年2月撮影。

護法ヶ谷へのコースに「一ノ谷→」の道標があったので、この谷を「一ノ谷」と呼ぶものだと考えていましたが、どうも坂尻下まで下った先、東海自然歩道の谷筋を指して「一ノ谷」としているようです。

この鞍部から北西に直線で0.18kmほど急な尾根を登り、少しばかり奥に入れば吉兆山の山頂です。
地形図では標高点や三角点を持たない標高約460mの小ピークで、地形図ではこのあたり
「基盤地図情報(数値標高モデル)5mメッシュ」(5mDEM)によると標高462m(→その後のデータ改正で標高465mに)。
地形図に示される桃山の標高点は466mですが、5mDEM確認するかぎり、最高地点と見なせる地点でも約460mですので、実際には桃山より吉兆山のほうが僅かに高いようです。

吉兆山はあの吉兆さんゆかりの山ですが、今となっては知る人も少ないようです。
昔は吉兆さんの公式サイトにも吉兆山の話が載っており、興味深く拝読したものですが、リニューアル後は見当たらなくなりました。
かつては山頂に「吉兆山」「吉兆寺山」の山名標が付いており、さらに、付近の道標には「吉兆谷山→」と示されていたため、3つの山名が混在する山でした。
過去に登頂した際、2003年(平成15年)に京都山歩会さんが設置された「吉兆山」の山名標も見ましたが、もちろん、すでに渡辺歩京さんは他界された後です。
余談の余談ですが、1974年(昭和49年)における峰床山の貴重な山行記録 に見えるWさんこそ渡辺歩京さん。
この山行記録の筆者は真渓涙骨の養女、芙美子さんで、晩年の種田山頭火と会っていらっしゃる(羨ましい)。

京都北山 早朝の沢ノ池・沢山 京都一周トレイル 2015年9月
早朝の沢ノ池・沢山。京都北山。2015年9月。

吉兆山の西の谷が吉兆谷で、その吉兆谷を跨いで沢山がそびえます。
沢山の西の山間には沢ノ池が所在しますが、京都一周トレイル北山コースが付近を通ることもあり、ご存じの方も多いでしょう。
この日は沢山を登らなかったので、今年の9月に他の方々と沢ノ池を訪れた際に撮影した写真を掲載しておきます。
随分昔の話ですが、一時期、沢池遺跡を掘り返して遊んでいた時期があり、その頃はとくによく訪れていました。
キャンプ客が多かったからか、昔は野犬も見かけたものです。

話を戻し、吉兆山と桃山の鞍部から東に0.13kmほど尾根道を伝えば、桃山の見晴台(展望台)です。
先ほどまでの植林帯とは異なり、この付近の尾根道は雑木も多く、紅葉や落葉が進んでいました。

鷹峯三山 桃山(天峯、天ヶ峰)の見晴台(展望台)から京都に対する眺望 2015年11月
桃山(天峯、天ヶ峰)の見晴台(展望台)から京都に対する眺望。

主な山、建築物距離標高
(地上高)
山頂所在地
大文字山9.8km465.3m京都府京都市左京区
音羽山15.4km593.1m京都府京都市山科区
(滋賀県大津市)
千頭岳17.4km600m京都府京都市伏見区
滋賀県大津市
空鉢峰
(鷲峰山)
30.5km682m京都府相楽郡和束町
清水山9.6km242.2m京都府京都市東山区
京都タワー8.4km(131m)京都府京都市下京区

桃山の山頂の南西には展望台が開かれており、なかなかの見晴らしの良さを誇ります。
眼下に京都を俯瞰するのはもちろん、今回、掲載している写真には写っていませんが、遠くの生駒山や金剛山、それに大峰山脈や台高山脈まで見通すことができます。
「天峯(天ヶ峰)」を称するにふさわしい展望と言えるでしょう。
桃山の山頂は京都市北区鷹峯護法ケ谷・仏谷と京都市右京区鳴滝宇多野谷の区境に所在しますが、見晴台もおおむね区境付近にあたります。
なお、桃山は地形図に見える標高点の地点より、その北西あたりのほうが標高が高く、現地でもその地点付近に山頂を示す山名標が設置されています。
本記事の最下部に表示される地理院地図でも、標高点ではなく、実際の山頂と考えられる地点を中心に表示しておきます。

上の写真の構図は、前回の記事で写真を掲載した光悦寺さんからの眺めを高くした感じです。
左に大文字山を、中央に醍醐山地を、右に鷲峰山を収めており、清水山や将軍塚など京都東山の連なりや、京都の街並みの中には京都御苑、二条城などが写っています。
右端の隅には小さく京都タワーも写っていますが、広角で撮影した写真では分からないでしょうか。

整理の都合で記事を分けます。

京都北山 桃山(天峯、天ヶ峰)の見晴台(展望地) 京都市 2015年11月

京都北山 桃山を登山 金剛山、大峰山、大台ヶ原山を遠望

2015.12.28

上の記事に続きます。

なお、今回のシリーズでは、いわゆる「鷹峯三山」のうち、「天峯」について取り上げていますが、過去、残りの2座(鷲峯、鷹峯)を登った日の話は、

左大文字山から改修工事中の京都タワー(キノコタワー)を望む 2013年2月

左大文字山と鷹峯三山を登山 鷲峯~兀山 京都タワーを遠望

2013.03.03

上の記事に詳しく。

関連記事 2015年11月 鷹峯三山 光悦寺と桃山ハイク

すべて同日の山行記録です。併せてご覧ください。

桃山(天ヶ峰) 最高点(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「桃山(天ヶ峰)」周辺の地図を表示
「桃山(モモヤマ)(ももやま)」 別称として「天峯」「天ヶ峰」
標高466m
「吉兆山(キッチョウヤマ)(きっちょうやま)」 別称として「吉兆寺山」「吉兆谷山」
標高約460m
京都府京都市北区、右京区

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Maro@きょうのまなざし

京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!