大文字山の最深部 白川御領山の境界標石 南ヶ原の旧地名

2013年(平成25年)10月6日の話。
この日は塔体がピンク色にライトアップされる京都タワーを撮影するため、おなじみの大文字山・如意ヶ岳ハイキング。
道中、寄り道をして、大文字山と白川御領山(御領山)の境界標石の様子を見に。
かつての白川村新田も近い、いわゆる子熊山より東側の山域にあたります。

大文字山 「白川 従是御領山」境界標石 2013年10月
「白川 従是御領山」の境界標石。大文字山の山中。

これと同様の石杭は、かつての浄土寺村や鹿ヶ谷村(鹿ケ谷村)と白川村の境に10ヶ所以上は残されていましたが、風化が進み、字が読み取りにくくなったものや、倒壊してしまったものなど、さまざまです。

上の写真に写る境界標石は、今でも利用されるコース上で見ることができるにもかかわらず、なぜか他の標石と比較しても状態がよく、100年以上前に埋設されたものとは思えません。
年々、斜面が削れていることもあり、今回の大雨で崩れたのではないかと心配していました。

大文字山 「白川 従是御領山」境界標石 斜面現況 2013年10月
現況はこのような感じで、斜面ともども、いずれ崩れる可能性があります。

大文字山 「白川 従是御領山」境界標石 文字 2013年10月
上段は右から左に「白川」、中央は上から下に「従是御領山」と文字が刻まれていますが、「御領山」の「山」の字は地中に埋まっており、この標石では読み取ることができません。
鹿ヶ谷村側(大文字山側)から見て、「従是(是より)」、白川村側が皇室所有の御領山林であったことを示す標石です。
前後の経緯はよく分かりませんが、白川村の記録にも、村の官有地に「御料林野」と見え、明治時代頃、宮内省御料局(→帝室林野管理局)の管理下に置かれた、いわゆる「御料林」があったのは確かなようです。
大文字山の三角点より北東部、最深部とも言うべき白川寄りの山域については、今となっては「北斜面」、あるいは「北面」といった呼称が広まってしまいましたが、このように、かつては御料林の御領山とされていた山域であり、私はそのように呼んでいます。
「御所山」とする例もあるようですが、石に刻まれた文面に従えば御領山が正しいと考えられます。
また、御料林じたいは当地に限らず各地にあり(たとえば隣の修学院村にもありました)、昔はさまざまな場所に似たような境界標石が置かれていたようです。

追記。
この件について、より正確に述べておきますと、御所山は北白川の小字(白川村字南ヶ原小字御所山)であり、大文字山の北部山域、あるいは御領山の山域でも、ごく一部の狭い範囲を指す呼称に過ぎません。
南ヶ原の他の小字として、呼子谷、石部谷、大松ヶ谷、櫻谷(桜谷)、寒谷、温ミ谷、菖蒲谷、長尾、大平、廣甲(広甲)、東谷、厩谷、阪ヶ原、上ヶ原、古別當(古別当)、片ヶ原、牛石谷、銚子谷、抱石、梅木谷、馬脊谷(馬背谷)、百ニ掛、小龜ヶ谷(小亀ヶ谷)、龜甲(亀甲)、花ヶ谷、雲ヶ池、新道が伝わります。
小亀ヶ谷など、現在も住所地名として残る一部の例外を除けば、どれほど大文字山に詳しい方でも、なかなかどの小字がどこを指しているか分かる方は少ないでしょう。
個人的には「櫻谷(桜谷)」の地名が気になるところですね。
追記終わり。

さらに追記というか訂正。
南ヶ原の小字の「小龜ヶ谷(小亀ヶ谷)」は、上で書いた、現在も住所地名として残る「小亀ヶ谷」(現在の左京区北白川小亀谷町)とは異なる字地を指しています。
当地の小亀ヶ谷は白川村字南ヶ原小字小亀ヶ谷で、現在の北白川小亀谷町は、かつての白川村字小亀ヶ谷でした。
隣接する字南ヶ原と、字小亀ヶ谷、どちらも小亀ヶ谷の名があるので、長年、混同していました(もっとも、「小亀ヶ谷」は双方で同じ谷を指しているようですが)。
同様のケースとして、小字菖蒲谷についても、白川村字南ヶ原と隣接して、鹿ヶ谷村側にも字菖蒲谷があり、これは現在も左京区鹿ケ谷菖蒲谷町(しょうぶだにちょう)として名前を残します(読みは国土地理院による)。
この「菖蒲谷」も、両者で同じ谷を指している可能性が高いと見ています。
訂正終わり。

このあたりの山域は複雑に尾根や谷が入り組んでおり、軽い気持ちで谷間に入り込むと道迷いは必至とも言え、オリエンテーリングや読図の教材としても利用されています。
1938年(昭和13年)測図、1940年(昭和15年)発行の一万分一「大文字山」では、かつての白川村新田の西、このあたりのピーク に基準点342.3mが見えます。
現代における比叡平ペット霊園の上ですね。
地形図に見える破線路が、かつての基準点のなごりと言えるでしょうか。

地元出身の方でもなければ、新田の話も分かる方がほぼいらっしゃらなくなってしまいました。
大文字山の山中でお会いする方々に「新田のあたりで……」といったお話をしても、きょとんとした顔をなさるばかりです。
戦後になり開かれた比叡平の西、この比叡平は府県境より東、滋賀県大津市側に所在しますが、その比叡平に接して府県境より西、現在の左京区北白川側、古い正式図や戦前までの地形図には「新田」と表示されています。
このあたりを含む広い山域にわたり、昭和の末期頃、大規模なゴルフ場を建設する計画が持ち上がりましたが、これは地元住民さんらの反対活動により撤回されました。

…京都タワーを撮影したことについて書こうとしていたのですが、山行だけではなく、記事でもすっかり寄り道してしまいました。
そちらのお話はいずれ機会があれば。

大文字山からピンク色にライトアップされた京都タワーを望む 2013年10月

ピンク色の京都タワーを大文字山から望む ピンクリボン2013

2013.10.13

続きは上の記事に。

紅葉する大文字山 京都市 2013年11月

白川御領山や大文字山の紅葉 二段の滝と石切り場 台風の爪痕

2013.11.29

同じ年に紅葉・黄葉狩りをした話は上の記事に。
口コミで知る人も少しずつ増えてきた? 昔から私が勝手に「水○局の滝」と呼んでいるマイナな滝の話も少しだけ。
この滝は府道30号下鴨大津線側からは立入できないので、あまり大っぴらに紹介はできませんが……。

関連記事 2013年10月6日 ピンクリボン京都2013

すべて同日の山行記録です。併せてご覧ください。

大文字山(地理院 標準地図)

クリック(タップ)で「大文字山」周辺の地図を表示
「大文字山(ダイモンジヤマ)(だいもんじやま)」
標高465.4m(→465.3m)(三等三角点「鹿ケ谷」)
京都府京都市左京区(山体は山科区に跨る)

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ABOUTこの記事をかいた人

Maro@きょうのまなざし

京都市出身、京都市在住。山で寝転がりながら本を読むか妄想に耽る日々。風景、遠望、夕日、夜景などの写真を交えつつ、大文字山など近畿周辺(関西周辺)の山からの山岳展望・山座同定の話、ハイキングや夜間登山の話、山野草や花、野鳥の話、京都の桜や桃の話、歴史や文化、地理や地図、地誌や郷土史、神社仏閣の話などを語っています。リンク自由。山行記録はごく一部だけ公開!