奈良県から「あべのハルカス」を遠望 最遠は?

「『あべのハルカス』は奈良から見える?」

奈良県から超高層ビル「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)を望むにあたり、どこまで遠く離れた場所から見える(どこから見える、遠望できる、撮影できる)のでしょうか。

「カシミール3D」 を用いて、国土地理院が提供するベクトルデータ「基盤地図情報(数値標高モデル)10mメッシュ」(DEM10B)を基に「可視マップ」を作製、「奈良県のどこから『あべのハルカス』が見える」か、その範囲を計算、調べてみました。
奈良県と三重県の県境、台高山脈に「見える地点」が点在していますが、距離としては大差なく、いずれも最遠望の候補地と言えるでしょう。

こちらでは、「『あべのハルカス』はどこから見える?」 と異なり、現地の状況を考慮せず、計算上、「あべのハルカス」が見える範囲(見える場所)を列挙しています。
あくまでも計算上では見えるだけであって、実際に見えるかどうかは分かりません。
また、提供されるデータの更新により、今後、計算結果が変わる可能性があります。

図の紫色の地点が計算上の「見える範囲」(可視エリア)となります。

台高山脈

広クリ谷ノ頭、添谷山、御座嵓

「あべのハルカス」可視マップ 奈良県 添谷山周辺(台高山脈)
三重県多気郡大台町、奈良県吉野郡川上村
「あべのハルカス」までの距離 73.4km(広クリ谷ノ頭)、73.2km(添谷山)
→ 別窓で大きな地図を表示 (※リンク先は添谷山の三角点)

大台辻の北東に所在する広クリ谷ノ頭、添谷山、御座嵓の周辺が「見える範囲」に含まれており、とくに、「あべのハルカス」から73.4km離れている広クリ谷ノ頭が、計算上、「奈良県から『あべのハルカス』が見える最遠望地点」 となります。
広クリ谷ノ頭は添谷山の南西に所在する約1290m小ピーク。

三津河落山

「あべのハルカス」可視マップ 奈良県 三津河落山周辺(台高山脈)
奈良県吉野郡川上村、三重県多気郡大台町
「あべのハルカス」までの距離 73km(範囲内の尾根まで)
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三津河落山は如来月、日本鼻など周辺峰の総称であり、狭義の三津河落山は三川分水嶺にあたる如来月の北の小ピークを指します(ゆえに「三津河落」を称します)が、さらにその北東の尾根が「見える範囲」に含まれています。

大台ヶ原山

日出ヶ岳

「あべのハルカス」可視マップ 奈良県 日出ヶ岳周辺(大台ヶ原)
三重県多気郡大台町、奈良県吉野郡上北山村
「あべのハルカス」までの距離 約75km
→ 別窓で大きな地図を表示

計算上、台高山脈最高峰である日出ヶ岳の山頂(三角点付近の展望台)は「見える範囲」から外れており、周辺の「見える範囲」は奈良県ではなく三重県側にあたるため、この項とは無関係ですが、数値地図の誤差や、展望台の目線の高さを考慮、「あべのハルカス」の座標設定、あるいは、間を遮る大所山(百合ヶ岳)の状況いかんによっては日出ヶ岳の山頂から見える可能性が残されているため、併せて紹介しておきます。
現状、日出ヶ岳の山頂の所在地は三重県(多気郡大台町大杉)であり、仮に山頂が「見える範囲」に含まれたとしても、「奈良県から見た」ことにはなりません(奈良県から見る場合、立脚点を県境に置く、あるいは県境より奈良県側に置く必要があります)。

日出ヶ岳(大台ヶ原)から「あべのハルカス」に対する見通し
日出ヶ岳(大台ヶ原)の山頂から「あべのハルカス」に対する見通し。
見える見えないを機械的に判断すると「見えません」が、本当にぎりぎりであり、絶対に見えないとまでは私には断定できません。
遮っているのは大峰山脈に属する大所山(百合ヶ岳)の北東、標高点1270m付近。

大和葛城山から淡路富士、りんくうゲートタワービル、りんくうの星を遠望 2013年4月

金剛山地 大和葛城山から淡路富士、あべのハルカスを遠望

2013.05.01

過去の大和葛城山の記事でも触れていますが、大所山(百合ヶ岳)という山は、展望の観点において、なかなか興味深い位置に所在する山です。

日出ヶ岳の北東0.06km地点から「あべのハルカス」に対する見通し
日出ヶ岳の北東0.06km地点から「あべのハルカス」に対する見通し。
「見える範囲」に含まれているため、あくまでも計算上では「見えます」。
ただし、わずかな距離とはいえ、当地点は三重県側にあたるため、奈良県から望んだとは見なせません。
また、木立の影響を考慮していないため、実際に見えるかどうかも分かりません。

追記。
一般的には日出ヶ岳の展望台は県境にあると見なしても全く問題ありませんが、「どこから見た」かの厳密さが要求される場合は問題となりうるケースです。
たとえば、奈良県の森林基本図でも、日出ヶ岳(森林基本図では「日ノ出嶽」)の三角点や展望台を明確に三重県側に表示しており、県でも山頂の所在を正しく把握しています。

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「地理院地図」のベースマップ「標準地図」タイルに「基盤地図情報(基本項目)」タイル(ベクトルタイル)を重ねて表示した例。

1/2500ベースの「町字界線」は、1/25000ベースの「行政区画界線」より正確である場合が多いですが、必ずしも土地境界の現況を正しく表しているとは限りません。
公図や民間企業等の成果とは異なる場合があります。
補足程度に。

大台ヶ原から「ハルカス」が見える?

反響が大きかったため、改めて追記しておきます。
私が一貫して「大台ヶ原山の展望台からハルカスは見えない」と主張していたことが目を引いたのでしょうか。
2014年4月にかけて、この件(大台ヶ原から「あべのハルカス」が見える?)で、大手のマスメディアさんをはじめ、いくつかお問い合わせをいただきましたが、たとえば、身長5mの巨人さんなら見えるか、山頂に高さ10mの櫓を組んだら見えるか、ラジコンヘリ(ドローン)による空撮は可能かなど、仮定の付け足しを行うときりがなく、大した意味はなさないため、こちらでは「可視マップ」による計算結果に基づいて述べるのみに留めておきます。
このことは専門家さんに限らず、どなたでも確かめることができ、同じ条件で計算を行えば同じ結果となります。
精査はどなたでも可能ですので、誰が言ったかではなく、計算結果のみを見て判断すべき事柄です。

少し追記。
本件について、誤解がないよう、経緯を記録しておきますが、2014年に「大台ヶ原山からハルカスが見える」といった報道がなされるより遥かに前、まだハルカスが建設中だった2013年の時点で、私は「見えない可能性が高い」と申し上げていました。
まず、私が先に(建設中の時点で)「見えない可能性が高い」と公表していたものを、後から他の方が(竣工の直前になって)「見える」と発表なさったのです。
その時点で、インターネットの一般的な検索エンジンを利用し、主だったワードで検索すれば、まず当方が公開する記事が一番上に表示されましたから、どなたに限らず、研究熱心で知識欲が旺盛な方であれば、そちらをご覧になっていた可能性が高いでしょう(当サイトは普段からそれなりに安定したアクセス数がありますし、実際、マスメディアさんらは把握なさっていたからこそ、私に対して複数の問い合わせがあったのですから)。
そのうえで、後から反対の意見を述べられたのですから、見えない可能性が高いと先に申し上げていた私からすると、自身の意見を否定されたようなものです。
当然ながら、私は反論の機会を与えられてしかるべきだと考えました。
そこで、報道関係の方が、実際に見えるか見えないか確認したいから実地調査に立ち会っていただけませんかとおっしゃるので、体調の問題もあり悩みましたが、いちおう承諾いたしました(が、それが伝わったのか、以下の経緯でうやむやにされました)。
追記終わり。

追記しておきます。
その後、「大所山の木立の影響により、大台ヶ原から『あべのハルカス』を見通せない」といった報道がなされたと聞き及んでいますが、そもそも、木立の影響を加味するまでもなく、計算上、大台ヶ原の展望台は「見える範囲」から外れているというのが当方の見解です(櫓状に組まれた展望台の高さを加味すれば、木立の影響は少しは相殺できますから)。
念には念を入れて、この件については(この件についても)他所でも確認していただきました。
当方のように第三者によるクロスチェック(ダブルチェック)を行っていれば避けられる問題だと考えられます。

参考までに、当方が計算に用いたデータ、設定を下に記載しておきます。
気になる方は、ご自身でも「カシミール3D」を用いて「可視マップ」を作成する、あるいは、「見通し判定」機能などにより検証してみてください。
私が述べることを鵜呑みにするのではなく、何事も自分で試してみるのがよいでしょう。
国が公開する成果に基づき、どなたでも検証が可能なのがソフトウェアの素晴らしい点です。

標高データ
「基盤地図情報(数値標高モデル)10mメッシュ」 国土地理院
(+「地理院地図(旧版)」、「地理院地図(新版)」を重ねる)
2013年8月時点の提供データを使用

計算仕様の設定
気差の設定 気差を含んだ地球半径の倍数で設定する 1.156倍
樹木の影響を加味しない

可視マップ 計算の設定
「あべのハルカス」の座標 北緯34度38分45秒 東経135度30分51秒
「あべのハルカス」の標高 316.6m (317m、322m、327mなどの仮定でも計算済)
ヒュベニの式を使う チェック有無、どちらも計算済
メッシュを補間する チェック有無、どちらも計算済
すべての点を計算する チェック有無、どちらも計算済
球面上で視線をトレースする チェック有
精密に計算 (「高精密に計算」設定でも計算済)

これは2013年10月、ならびに2014年1月、同3~4月時点での見解であり、提供されるデータの更新により、今後、計算結果が変わる可能性があります。

最後に

台高山脈に限らず、吉野や大峰山脈、竜門山地はもちろん、紀伊山地西部でも奥高野にあたる伯母子岳の周辺など、奈良県から「あべのハルカス」が見える範囲は広く、今後の視認例、撮影例が楽しみです。

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